初出展 東方夜伽話

登場人物

霧雨魔理沙

アリス・マーカドロイト

 

ここは魔法の森。
そこでは、二人の魔法使いが住んでいた。


「お前なんて大嫌いだぜ」
「私だってアンタなんか大嫌いよ」


野良魔法使い……霧雨魔理沙。
七色の人形遣い……アリス・マーカトロイド。
同じ魔法使いでありながら、二人は衝突することが多い。
近親憎悪――――似てるがゆえに抱く憎しみ、素直になれない二人は常に喧嘩と仲直りを繰り返す。
その日もまた、お互いに素直になれず喧嘩をした。

それが、全ての種だった。


ただほんの些細な喧嘩。それがきっかけで、全てが狂い始める。
歯車が些細な故障で狂うが如く。


「私、結婚するんだ」
―――――そう言って、結婚式の招待状を渡されたとき。魔理沙のはにかむ笑顔を見たとき。私の目の前が黒く染まった。

*****

魔法の森。アリス・マーカトロイド宅。

私は、飛び去っていった魔理沙の後姿を想いながら、沈んでいた。
――――どうして、あんなことを言ってしまったのだろう?
そんな、後悔の念でいっぱい。愚かな自分が、恥ずかしく同時に嫌悪感を抱く。
(馬鹿だ、私。後悔するなら、言わなければよかったのに)

いつもの喧嘩。
他愛も無い喧嘩。
その後、私は必ず後悔していた。
魔理沙が傷ついたような表情を顔に浮かべて、それを隠すために帽子を深く被る度に、私は深く後悔する。
『ああ、今回も私はこの人を傷付けてしまった』と。

こんな自分が嫌だ。
魔理沙を傷付ける自分が嫌だ。

素直になれず、近づくことを恐れて。
深い関係を持てば持つほど、失ったときひどく痛む胸の痛みを、知らずに生きていくほうが楽だから。
だから、私は一歩手前で彼女を傷付ける。
魔理沙は、私の領域に易々と踏み込んでくるから、関わろうとするから。
それを防ぐために、私はわざと魔理沙を傷付けるのだ。
自分の臆病が原因で傷つく彼女を見るたび、私は後悔をした。数え切れないほどの後悔を。

『アンタなんか、大嫌い』
――――――大嫌い。
――――――――――大嫌い。
――――――――――――――大嫌い。





――――――――――――――――――嘘、大好き。



そう、私、アリス・マーカトロイドは霧雨魔理沙が好き。
愛している。
だって、魔理沙は私の光だから。

輝く太陽だから。

だから、私は魔理沙の影になって生きていこうと決めた。
彼女が太陽ならば、私は月になろう。
彼女が紅く燃える炎なら、私は青く燃える炎になろう。

対象に位置し、対等の形であることを望み。

一定の距離を保ち、深く干渉しあわない。

熱く燃えるこの『恋』を、私は静かに燃える『愛』に変えた。
魔理沙の隣にいるのは私じゃない。私ごとき妖怪が立っていい場所じゃない。彼女の隣には同じように輝く人が似合っている。

私に未来は無い。

彼女には未来がある。

だから、私のせいで彼女の足が止まらないように。
私は彼女を傷付け続けることしかできない。それが、彼女に心を盗まれた者の末路だから。

私は。


そんな言い訳で、逃げたんだ。


*****

そんな、喧嘩から一週間。
雨がそぼ降る中、家の呼び鈴が響き私は、実験の手を休め玄関に急いだ。
相手は大体予想できた。
一週間……そろそろ、彼女から謝りに来るころだろう。

こうして、私と魔理沙は関係をリセットし、再び近くなってくると喧嘩をして突き放す。
私は少し憂鬱だった。
また、魔理沙を傷付けてしまうのだと。いずれ来るその日が辛い。

「はい、どちら様でしょうか?」
「私だぜ」
ああ、やっぱり。

「何よ」
「ああ、とりあえず中に入っていいか?」
魔理沙はびしょ濡れだった。雨の中傘も差さずに飛んできたのだろう。

「………待っていなさい。今、タオルを」
「別にいい」
私はタオルを取りにいこうと、背中を向けたが、腕をつかまれ引き止められる。

「何を――――――」
「………するんだ」
何を言ったのだろうか?

「結婚、するんだ」
何を言ったのだろうか?

「私、結婚するんだ」
何を言ったのだろうか?



重く響く、その言葉。
何も理解できない。突然のことで理解できない。

喧嘩をした(いつもどおり)
後悔した(いつもどおり)
そして、魔理沙は『いつもどおり』仲直りしようと私の家に来て。
「結婚するんだ」
なんて。

私は、ハニカム魔理沙の顔を見てしまう。それは明らかに幸福そうな笑顔。優しい笑顔。
私が魔理沙に与えることができない幸福。
それを、魔理沙は浮かべている。
「今日、アリスの家に来たのは報告なんだ。来週、挙式をあげるから。やっぱり同じ魔法使いとして末永く友人でいたいからな。だから、挙式のときも参加してほしい。喧嘩のことは悪いと思っている。だから、機嫌直して来てくれると………うれしい」

うるさい。

「ああ、あいつも待ってるって言ってたぜ?アリスにも来てほしいって」

あいつ?
じゃあ、私が知っている人物なのだろうか?

「知っているも何も。ああ、そうか言ってなかったな。パチュリーだぜ」

パチュリー………あの、引きこもりの魔法使いか。

馬鹿みたい。
私は魔理沙のことを気遣って、傷ついて、後悔して、葛藤を繰り返して、辛かったのに。
その間、こいつはそんな事関係なしに、あの魔法使いと春色だったわけか。

ああ、馬鹿みたい。

「お前には感謝しているんだぜ、あの一週間前の喧嘩がなけりゃ、想いを伝えることもできなかったし。両思いだって知ることもできなかったわけだしな」

私は思わず歯軋りをする。
憎々しかった。
幸せそうに語る、こいつが憎々しくて。


その幸せを、一瞬でも壊したいと思う私がいて、








それを実行した私がいた。


*****

いつからだろうか。
魔理沙を愛おしいと思うようになったのは?

いつからだろうか。
魔理沙を好きと自覚するようになったのは?

追憶の記憶に、憧れを抱いて。
その眩しさを、失うことが恐ろしくて。
逃げ続けた末路が、この結果なら。
魔理沙が誰かに採られるという末路なら。
そんな眩しさ―――――――もういらない。
そんな憧れ―――――――もう、必要ない。

逃げ続け、壊れることを恐れて招いた自分の愚かさに。

私は、ようやく気づいた。


こんなに痛いなら。苦しいなら。『愛』なんて抱かなければよかった。

だから、私は選ぶ。
自分の意思で燃え上がるような、狂った『恋』を選ぼう。
奪ってやる。
その心も、その身も、魔理沙の毛の一本まで私のもの。

誰にも、渡さない。


邪魔するやつは全員殺してやる。

*****

手始めに、腹部を蹴り飛ばしてやった。


その痛みでうめく魔理沙の手足を縛り、ベットの上に転がす。
「ナニ、を」
敵意丸出しで、抵抗するように睨む魔理沙を見て不謹慎にもゾクゾクしてしまった。
今まで自覚は無かったが、もしかしたらS気があるのかもしれない。
と、また、私は不適に笑った。
「私は、貴女を愛していたわ」
もう、距離がどうとか。どうでもよかった。だって、もう全て壊すことにしたから。
私の想いを邪魔するものは全て無くなった。

だから、全力で想いを伝えよう。たとえ、それで魔理沙と私との関係が壊れたとしても、どうでもよかった。

そう、どうでもいい。

もう、どうにでもなってしまえばいいんだ。
奪えないのなら、壊してしまえ。
逃げるぐらいなら、狂ってしまえ。

―――――――――さあ、怯えろ、苦しめ、懇願しろ、泣き叫べ。私が狂えるように。

優しさで、止まってしまう前に。


「私は愛していた」
手足を縛られて、動けない魔理沙に覆いかぶさる。
「貴女を愛していた」
絶望でゆがんだ、魔理沙の顔に手を添える。
「狂おしいほど、愛していた」

そして、殴った。
「ぐぁっ」
「好きだった! 愛していた! もう、制御できないほど貴女を想っていた! だけど、あなたが傷つくのが嫌で、ずっと我慢していたのにっ」

叫ぶごとに、一発ずつ顔面を殴っていく。

心が痛んだが、無視した。
今はただ、殴ったコブシがひたすらに痛かった。

「痛い!? 痛いでしょう!? でもこの倍私の心は痛かった! 貴女をわざと傷付けるのがどれだけ辛かったか分かる!? どれだけ悲しかったか分かる!?」

そう、痛かった。
すごく痛かった。


いままでずっと我慢していた分、それが捌け出される。

「ねぇ!? 痛いでしょう! 痛いっていってよ!? 魔理沙!!!」



「いたくねぇよ」
魔理沙が私の弱々しい拳を、そっとつかんだ。
本気でやったのは一発目の蹴りだけ。その後はひたすら魔理沙の近くにある道具を殴っていた。

殴ろうと思った。
何度も、何度も、拳を振り上げるたびに殴ろうと思った。だけど、できなかった。
私が憧れた幻想に。
眩しい光を穢すなんてことはできなかった。


「かえって」
手足を縛る縄を解いて、魔理沙を自由にした。
いくら今まで穢さずにすんだとしても、これからは分からない。もしかしたら、私は壊れてしまうかもしれない。そうしたら、きっと歯止めが利かなくなってしまう。

「アリス――――」
「帰って、早く。お願い……!」
悲痛な叫び、魔理沙はビクリと肩を震わせて、そそくさと去っていった。
扉が閉まる音がして、ようやく世界に静寂が戻ってくる。
「ああ、やっぱり臆病だな」
傷付けると、壊してやると決心して。私は結局それを実行することができなかった。
なんて臆病で。なんて無様。

涙が、零れた。
もう戻れない。もう、私は魔理沙の近くにいることができない。
きっと私は遅かれ早かれ狂ってしまうのだろう。壊れてしまうのだろう。だから………。


だからその前に、私は彼女の前から去ろうと思う。


「ごめんね、魔理沙。挙式………出れないわ」
間違えなく、狂ってしまうから。
「だから、せめて」

笑顔で祝って上げれない分、今ここで祈りましょう。


―――――――だからせめて眩しさに見合う幸せが、永遠に包んでくれますように。


その日私は、大声で泣き続けた。




魔法の森で一人の魔法使いが失踪したのが幻想郷に広まるのは、それから約三日後たった後である。




*****

別れは冬。
それから春が来て、夏が来て、秋が来て、また冬が来て。
私は一年、何もせずに一人魔界で過していた。

故郷である魔界は住み心地がよく、周りの魔界人も優しく接してくれた。

魔法からも離れ、既に私にあるのは『上海』と『蓬莱』だけだった。
他は全ておいてきてしまった。
痛んだ心を治療させるために、なんとなく帰ってきた私は人形も魔法も捨て、ただ漠然と毎日を過す。

おかげで、狂いそうな胸の痛みはすっかり消えてくれた。
一年間の療養は効果を発揮してくれたようだ。もう少ししたら、魔界を出て行こうと思う。
もう大丈夫だと、自分に言い聞かせて。
魔界を出て、再び一人で生きていこう。今度は他人を遠ざけて一人で。


幻想郷には……戻らない。


私は幻想郷には戻らず、今度は外の世界の山奥でひっそりと魔法を極めようと思う。
誰の手も入ってこないような僻地で、永遠のときを孤独で生きよう。
そうすれば、いつか。魔理沙への想いもきっと風化していく。そうだ、そうしよう。

決心して、早速準備をする。
母親である魔界神には、謝って別れを告げた。
母は思い出したら、戻ってくるようにと、優しく逃げ道をくれた。魔界に戻ると逃げ道を。
魔理沙のことを思い出す―――――、確かに、そんなこともあるだろう。

その度に私は傷つく。
だから、魔理沙を思い出したら戻って来いということだろう。


それもいいかもしれない。

「アリス」
くすくす、とその度に母が微笑んで出迎えてくれる、そんな場面を思い浮かべて微笑していた私の耳に、聞こえるはずの無い声が聞こえる。
(そんな、………ウソ)
そんなはずは無い。なんで、何でこんなところに彼女が。

「ようやく見つけたぜ。アリス」

「魔理沙」

声が震えているのが分かる。
怯えている。私は一年ぶりの魔理沙に怯えていた。

「なんで、こんなところに」
そんな声を上げることが精一杯。

「そんな事は愚問だろ? ―――――こっち向けよ、アリス」

魔理沙の声で体が震える。
男女の口調はそのままで、前よりもはっきりとした、それでいて逆らうことができない声と言葉に私はぎこちない動きで振り向いた。

そこには、一年まえよりも成長した大人びた魔理沙の姿。身長も伸び、今では恐らく私のほうが低いだろう。声も少し澄んでいるし、髪も若干伸びたようだ、大きな瞳は少しだけ細くなり、大人っぽくなっていた。少女から羽化した大人な女性として魔理沙は私の目の前にいた。一年というのは、ここまで人を変えるものなのだろうか?人間ではない私には到底理解できることではなかった。
だけど、前よりも魅力が増したのは、言うまでも無い。
動悸が激しくなるのを、はっきりと実感する。

「何をしにきたのよ、魔理沙」

後退りながら、魔理沙を見据える。
再び、あの負の感情が私を支配してきていたからだ。すこしでも、彼女から距離を置かなければ襲ってしまいそうだ。

「なんだよ。お前らしくない。戦わずして逃げるつもりかよ? 弱くなったなアリス。それじゃあ、私に怯えているように見えるぜ?」
「別に。アンタに関係ないじゃない」

「いや、それがおおありだぜ」
「は? なにを―――――」
「一ついいことを教えてやるぜ」
言ってんのよ、という前にいきなり魔理沙がさえぎる。

「何よ?」
「私はアリスが好きだ」



は?



イマ、コイツハ、ナントイイヤガリマシタカ?
「ちょっ、ちょっと待って。あんた、イマなんて――――」
「だから、アリスを好きだぜって話さ」

倒錯しかけた。
意味が分からない。
昔からそうだ。こいつは何から全てが突然すぎる。
大体、好きって―――――パチュリーはどうした。

「いや、結婚したぜ? でも、お前のことが気になってさ。毎日探しに行ってたら、アンタは誰のことが好きなのよ、って言われてさ。そう考えて私はパチュリーが好きだってい えなかったんだ。で、パチュリーに殴られてさ。怠けてんじゃないわよ、この馬鹿! さっさとアリスを迎えに行きなさい、って。つまり、別れた」


――――呆然とするしかなかった。
魔理沙とハチュリーが別れただなんて。あんなに幸せそうだったのに。

「大変だったぜ。何度も幻想郷を飛び回って、探し続けた。一年間ずっと。家にも帰らず放浪の旅だぜ? でも、この間お前の家に行ってな。そしたら人形が落ちててな」

そう言って、魔理沙はポケットから人形が出てきた。あれは『オルレシアン』だろう。

「見よう見まねで魔力の糸を生成して、力を注ぎ込んでやったんだ。そしたら、………ここに導いてくれたんだぜ」

「うそ」

そんな馬鹿な。いくら、半自立人形だとしても心を持たぬ、あの子達が私を探し出すなんて。私は人形遣いとして最低の行為をしたのに。捨てて、いったのに。
「そこまでして、こいつが探し出してくれた。だから、もう遠慮なしに行くぜ。私はお前が好きだ。お前がいない一年。ずっと気が狂いそうだった。好きだ、愛している」

一歩、また一歩と近づいてくるが、私は動けなかった。その強い気持ちに私は竦んでしまった。
いつの間にか、手を伸ばせば届く位置に魔理沙がいる。

「もう我慢しない」
「!?」

腕が引かれる。魔理沙に抱きしめられるような形になってしまう。
魔理沙の鼓動が近くに聞こえて、私もドキドキと動悸が激しくなった。
「あ……」
ずっとほしかった温もりがそこにある。
逃げ続けた、光がそこにある。
愛していた、愛しい人がすぐ、そばに。

「いままで、苦しい思いをさせてゴメン。これからは、ずっとそばにいるから。お前を泣かせないから。泣かせるやつは私が倒すから。受け止めるから、全部受け止めるから。だから、アリスも気持ちを抑えないで、お互い曝け出して生きていこうぜ」

耳元で響く優しくて、恐ろしい声。きっと委ねてしまえば後悔するだろう。
だって、彼女は人間で。
私は永遠を生きる妖怪。
時間の流れが圧倒的に違いすぎる。
この一年魔理沙が驚異的な成長をしたのがいい例だ。いつか魔理沙は私を置いて逝ってしまう。だから、その温もりと幸せを知る前に逃げれば――――――。

「逃げるなんて思うなよ」

殊更強く抱きしめられる。
逃げられない。
「逃がさない」
逃げれない。
「逃がしてなんかやらない。もう、お前は私のものだ」

息を呑む。彼女の瞳は煌々と輝いていた。
それに私は完全に魅せられて、もう完全に逃げることができなかった。




「身も心も奪ってやる」




*****

私と魔理沙の唇が静かに重なった。
月光が、差し込む魔界での私の家の寝室。
魔理沙は私を押し倒し、私は魔理沙に押し倒されていた。

静寂が支配し、その中で二人の荒い息だけが響く。お互いに何も身に着けていない。裸の状態だった。

「なんだか、恥ずかしいな」
「そりゃ、そうでしょうね」

私だって恥ずかしい。ずっと想い続けた想い人とようやく一つになれるのだから。
「優しく、するから」
魔理沙が耳元で囁く。
息が耳に吹きかかって、びくりと体が震えてしまう。
「―――――――なぁ、アリス」
「ひゃぅっ」
「………」
息が吹きかかるたび、びくりびくりと腰が震えてしまう。ゾクリと背筋を這う快感に我慢ができない。
「もしかして、耳、弱いのか?」
意図して耳元で囁く魔理沙。それに対して、抗議の声を上げる。
「や、ひぅっ、分かってんならやめなさいよ、バカァ」

「………―――――――」

魔理沙の攻撃が止まった。
その代わり、魔理沙が私の上から引いて、ベットの端にうずくまる。

「ど、どうしての?」
体を震わせている魔理沙。
私は何かあったのかと思って、問いかけるが、
「お前――――可愛すぎ」

と、鼻血を垂らしていて流石の私でも少しだけほんの少しだけ愛情が揺らいだ。
(魔理沙って、変態だったのね)

「ああ、やばい。もう止まらないぜ?止まってやらない。懇願しても、私のものにするまで犯し続ける。いいか?」


そんなの、決まっている。

「私の初めてを………全てを」
彼女の腕に抱かれたときから、心は既に一つ。
もう、後悔なんてしないから。
私の逃げ道を、貴女の優しい言葉で封じて。
もう、二度と逃げないように乱暴に、優しく、激しく、心地よく。

「全てを――――――――奪って」


再び重なる唇。
今度は激しく、互いの愛を確かめる為に。そこにある愛を、想いを、全てを魔理沙は奪っていく。
「はんぅ、む、ちゅ、はぁん」
「ん――――むぅ、んちゅう―――――ぷは」

伝い落ちる銀の橋。繋がって、私の肌に零れ落ちる互いの唾液。
「ん」
それを魔理沙は舌で掬い取る。
「んぁ」
「は、可愛いぜ。アリス」
「う、うるさいぃんっ!?」
乳首を強く捻られる。その強すぎる刺激に、腰が大きく跳ねた。
「はは、やっぱり可愛い」
「んっ、んっ、くぅぅんっはふん――! はぅっ……ふん……っ! ふん」

もう抗議の声さえ出ない。
激しい愛撫のせいで、快楽が次々と私を襲ってくる。
「ひゃふぅ…………やめ! あく、すきぃ……っ、ふあっ」
「私も好きだぜ」
今度は強く吸われる。
痕が付くほど強く。
「んっ、んんん!ひゃぁあん」

魔理沙の攻めに、どうしようもないほどよがりまくる。
なんとなくだが、魔理沙は初めてではないような気がした。だって、こんなに攻めがうまい人なんてはじめて見たし。というか、いないだろう普通。

この事から、魔理沙は初めてじゃ――――――――――!!?
「ふぅん、くはぁっ、うそっ、駄目ぇっくぅん!」
「何が駄目なんだ?ちゅ、もうすっかりトロトロだぜ?」

魔理沙はいつの間にか、足の付け根の間にいて、私の秘部をまじまじと見つめていた。
皺の一つ一つを見るような。羞恥で耳まで赤くなって、魔理沙にからかわれる。散々だ。

「ちゅ、んぶ、はっ、凄い、ドンドン溢れてくる。飲みきれないぜ………」
「そんなもの飲まなくていいわよ!!」

それでも、執拗に攻めてくる魔理沙。ゾクゾクした快感に、なにかが来そうな感じだった。
「くぅぅんっ、そっち……っ、ひゃん……っ! うくっおねがい……っ!も、……だめっ」
「そうか、んっ、じゃあ。いくぜ?」

入り口に指があてがわれる。
緊張で体が固まった。
「おい、力抜けって」
「そんなこと言ったって。私……初めてだもの」
「……――――――そうか、なら」
「んぅ!?」

突然、唇が重ねられる。
しかも、凄く濃厚なキス。
舌が歯茎をなぞり、舌を絡めてその奥にまで伸びる。口腔内を舌で犯されるような感覚。いや、実際犯されていた。

「ん、ふぅん、はっはぁ」
「ちゅっ、むぅぅん、あは、よし、いいな」

何がいいのだろう?
そう胡乱な頭でぼんやり考えていると、秘部にずぶりと何かが存在してきた。
そして、同時に激しい痛み。
「ぐぁ、あ、はあ、んっ………痛、…んあああああ」
魔理沙の背中に爪を立てる。
魔理沙の顔が苦悶で歪むが、それと同時に優しく微笑む魔理沙。

「大丈夫。大丈夫だから。私に全てをゆだねて。爪もいっぱい立てていいから」
出し入れされる指は、激しく、時に優しく。緩急をつけて私を貫く。
その魔理沙の優しさと、燃え盛る情欲の炎。二つが燃え盛っている。それを身で感じられて私は幸せな気分になった。

(私はなんて幸せなのだろう)

涙が零れる。
「あり、す」
その涙を魔理沙が貫いていない手のほうで掬ってくれた。
「痛いか?」

そんな優しさ。
その全てが愛おしい。狂おしいほど私は魔理沙を愛している。
「ううん。嬉しいの。ずっと、好きだったから。ようやく、ようやく一つになれたのね。私達―――――」

魔理沙が苦笑する。
「気付いてやれ無くてゴメンな。辛かったろ?今まで」
「大丈夫。貴女は迎えに来てくれたから。だから、もっと愛して」

ああ、と魔理沙が呟くと、再び貫く指の速度が上がっていく。
それに対して、わたしの快楽も増大されて、


「あぁあ、ひゅあっあつい――――ふあぁん――――んふあ…………、もう駄目!魔理沙、抱いて!あ……ぁん!ぎゅっ、んっあ、ってして!!」

もう絶頂が近い。
最後に私は魔理沙に抱かれたかった。
「あ、ああ」
「ん、」
魔理沙は私の望みどおり、私をギュゥ、と抱きしめてくれる。その温もりを感じて、その吐息を感じて、その鼓動の音を感じて。

「ひゃぁ、ぁぁん、来る、くる――――――――――――――――!!あぁぁあぁあぁああぁああぁあぁぁああああああぁああ!!!」

一際大きく喘いで、気を失った。

*****

火照る体を魔理沙に預け、互いの鼓動を静かに聴いていた。
なんて、優しくて残酷な時間だろう。

いずれ魔理沙は私をおいていく。

その痛みから目をそらして。知らぬふりをし続けた。

逃げていた。
だって、痛いのは嫌だから。苦しいのは嫌だから。悲しいのは嫌だから。
魔理沙を失うのはもっと嫌だから。
さよならと、彼女の死を見つめるのはもっともっと嫌だから。

背負うものは軽いほうがいい、と。私は逃げ続けた。


だけど、今からは違う。

今からは、逃げないでその痛みと向き合って生きていこう。
誰よりも、何よりも。
私と貴女の未来の為に。


「ねぇ、魔理沙。私は貴女の隣に相応しい?」
「何言ってんだ、当たり前だろう?」

魔理沙は苦笑しながら肯定してくる。
そんな簡単に言ってくれる魔理沙が愛おしくて憎らしい。

「ありがとう」


いつか、死が二人を別つまで。
大切な思い出として刻もう、この遠回りで歪んだ恋の行方を。

―FIN―




ちょっとした裏話。

パチュリー「………」
小悪魔「行かせてよかったんですか?パチュリー様」
パチュリー「いいのよ、魔理沙は最初から私を見てなかったし。大体、あの時だって私は魔理沙の傷に付け込んだだけよ」
小悪魔「だとしても、好きだったのでしょう?魔理沙さんのこと」
パチュリー「………ええ、好きだったわ。だけど、諦めたわけじゃない」
小悪魔「………そう、ですか」(シュン)
パチュリー「―――――――でも、少しは新しい恋を知りたいわね」(クス)
小悪魔「! それじゃあ!?」
パチュリー「振り返らせて見なさい。私は簡単には揺るがないわよ?私の心は未だに魔理沙に盗まれたままだし」
小悪魔「ええ!奪ってみせます!貴女の心を」

パチュリー「楽しみにしてるわ、小悪魔・リトル?」
小悪魔「はいっ!!」