初出展 東方夜伽話

登場人物

博麗霊夢

八雲紫

 

 

 

 

もうすぐ、眠らなくちゃならないの。

――――――いつもの冬眠?

ううん、少しだけ今回の眠りは長くなるわ。

――――――どのくらい眠るの?

百年か、千年。分からないわ。とにかく長い間。

――――――そう。

 

 

 

気付けばずっとそばにいた。

気付けば、ずっとそばに。

 

いつも唐突に現れて、私の手を煩わせる。そして安っぽい笑みを浮かべて笑う。他愛の無い話をしながら日々をすごす。そんな日常のひとコマがここまで大切だなんて気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、考えてもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

その、日常が簡単に崩れ去ってしまうなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

結末は決まっている。

これは、悲しい恋の物語。

叶うことの無い、悲しくて遠い恋慕は―――――――変わらず永久に続く。

 

ただ、巫女であるがゆえに弱くなれない一人の巫女の心を投影するように。

幻想郷がその日。

一人の巫女の為に泣いた。

 

 

 

ここは博麗神社。

妖怪の人間が共存する幻想の世界―幻想郷―の要である。

そして、その神社を守るのは私―――こと、博霊神社の巫女である博麗霊夢である。

そんな私はいつもどおり暇をもてあましていた。

 

「はぁ〜暇だわ、暇暇暇暇」

 

境内を軽く箒ではいてから、簡単なゴミ拾いをするが、いくら待っても参拝客は誰一人訪れない。これも、いつもどおりである。

仕方ないので、ゴミとして括ってある文々。新聞を取り出す。だいぶ前のものだが、生憎これが最新刊である。

 

最新刊の日付は一年以上前のもの。

それ以降はぱったりと新聞を見なくなった。

正しく言えば、新聞のネタを嬉々として探したり、新聞を配ったりする鴉天狗の射命丸文の姿を見なくなったというべきか。

風の噂では、とある理由で文が昏睡状態だとか。

 

とにかく、暇つぶしにでも新聞を見よう。一年以上前でも、多少は暇つぶしになるだろう。

私は新聞のトップ記事を見る。

『魔法の森に住む魔法使いが行方不明』

 

「あー、こんなのもあったわね」

 

あれは確か、魔理沙がパチュリーと結婚する頃。

七色の人形遣いと呼ばれる魔法使いアリス・マーガトロイドが行方を暗ましてしまったのだ。最初は魔理沙も落ち着いていたが、日々が過ぎるにつれてアリスを探すようになっていった………というのも、毎度毎度ボロボロになって、神社を魔理沙が訪れていたからである。

それから、しばらくしてパチュリーと離婚し、それっきり魔理沙はどこかに消えてしまった。

帰る場所がなくなった分、もっと広い範囲で探しているのかもしれない。

しかし、魔理沙がいなくなってから半年。

飢え死にしていないか心配である。

 

私は次の記事を見る。

『紅魔館の門番。二年間の昏睡状態から回復。瀟洒なメイドの懸命な看病のおかげか?』

 

………門番?

…………ああ、中国か。なに?あいつ昏睡状態だったの?

というか、あの十六夜咲夜が甲斐甲斐しく看病だなんて、どんな心境の変化かしら。

 

まぁ、心境の変化で言えば。

射命丸文が新聞を書かなくなったことで、少しだけ騒ぎになったこともあった。

しかし、結局彼女の後輩である犬走椛は何一つ答えず、文も無言を通すどころか、それ以来彼女の姿を見たものがいないらしい。

あの二人がどうしているのかは謎だか、彼女達の問題なのだろう。

部外者が関わることではない。

 

 

気付けば、少しだけ日が落ちていた。といっても、まだ昼時を過ぎたころだろう。

だとしたら、そろそろアイツが来るころだ。

 

そう、最近はかなりの頻度で神社に訪れるようになった妖怪。

そいつは何を考えているのか、たまに泊まったりする。妖怪が堂々と神社に泊まってどうするのか。

 

 

というか、本来ならありえないことだ。

まぁ、いつの間にやら家に上がりこんでいる訳で、回避の使用が無いので仕方が無いのだが。

 

私は、そうブツブツの不満をぶつけながら、お茶を汲もうと一度神社の中に入る。

………あくまで、自分のお茶である。誰かに出すお茶ではない。

ましてや、ここに訪れる妖怪になんて、お茶一つくんでやらな――――――。

 

 

「あ、霊夢。上がらせてもらっているわよ?」

 

 

ない。

 

ありえない。

 

なんで、こいつはまるで自分の家のようにくつろいでいるのか。なおかつ、勝手にお茶まで汲んで、こいつは私をなめているのか。

 

いっそのこと退治した方が幻想郷のため、そして我が家の経済状況の為になると思う。

 

「よし」

懐から、めいいっぱいのお札を出す。

 

ソレに対して、寝転んでいる招かざる客はビクリと体を震わせた。

「れ、霊夢? どうして両手いっぱいに札を持っているのかしら? あと若干敵意も感じるんだけれど」

「あら、紫。この私がここまで勝手されて黙っているたちだと思っていたわけ?」

 

八雲紫、神出鬼没な妖怪で、現れるときは回避不可能。境界をいじり、スキマにて現れる。私の頭を悩ませている存在。

それが、この妖怪だった。

 

「じゃあ、霊夢は私が大人しく退治されるとでも?」

「ふ、ありえないわね。アンタのことだから、荒らすだけ荒らしてスキマで逃げるつもりでしょう?」

「ご名答」

 

私は大きく溜息をつき、とりあえず中に入る。

こいつには何を言っても駄目だろう。なんというかきりが無いような気がするし。

 

私は座布団を、机を挟んで紫の反対側に敷き、座る。

とりあえず茶を啜ってからこいつをどうやって追い出すか考えることにしよう。

 

 

 

それまでは、この馬鹿妖怪と暇つぶしに会話するのもいい。

 

 

 

そう思って、私は知らないうちに微笑んでいた。

 

 

「で、最近幻想郷って春度が高いと思わない?」

「そ、そうね」

 

誰だ。

 

「藍も橙といちゃつくし、見てるこっちの気持ちも考えろっていうの!」

「………」

誰だ、紫の茶に酒を入れたのは。

 

紫はいきなり起き上がったかと思えば、お茶を一気飲みし、いきなり饒舌になりやがった。それだけならいい。話し相手がいることは、楽しいし、いい暇つぶしになる。

だが、問題はそれが全て愚痴なのだ。永遠亭の兎共が発情期でうるさいとか、式神どもの嬌声がうるさいとか、イチャイチャと最近の幻想郷は春度が高くて嫌だとか、いっそのことリリー・ホワイトを神隠しにしてやろうかとか。

 

何なんだ一体。

まるで何かに憑かれているみたいな。

私も一部に共感がもてたから、追い出すでもなく黙って聞いていたのだが、饒舌は輪をかけて酷くなっている。

半端に飲んだお茶は既に冷たくなっていた。

 

「ねぇ、紫」

「なにかしら?」

 

落ち着いたのか、お茶を啜って荒れた息を整えている。

 

「今日なんか変じゃない?」

うん、変だ。

何が変かって、全部だ。

まるで、………そう、何かがあってそれの憂さ晴らしみたいな。

 

 

 

「やっぱ気付いちゃうか」

 

 

 

紫は、空になった湯飲みを静かに机において、少しだけ悲しそうに笑った。

 

ドキリ、と一際大きく心臓が跳ねる。

もともと、紫は女である私から見ても絶世の美女である。金髪はさらさらで黄金の如く輝いているし。白い肌もさわり心地がよさそうだし、たまに見る妖艶な笑顔は見るたび心臓が痛いほどはねるのを感じてしまう。

 

妖怪は人を惑わし、犯し、舐り、堕とし、捕食する。

 

 

そして紫もその妖怪の一つだ。

私はその美しさに心奪われてしまったのかもしれない。

 

「実はね」

 

その声で私はわれに帰る。危なくそのまま紫に触れてしまうところだった。

しかし、どうにも紫の事になると我を忘れてしまう事が多々あるような気がする。それが気のせいならばいいが、気のせいでないのならば、悩みが一つ増えてしまう。

 

(どうして、博麗の巫女である私が、妖怪である紫の事になると我を忘れてしまうのか?)

 

まぁ、わかってはいる。

答えは出ている。

この気持ちを抱く理由は分からなくても、この気持ちを表す言葉を私は知っているから。

 

思えば、我を忘れる。

思えば、いつの間にか考えている。

想えば、動悸が激しくなる。

会えば、その顔に見とれる。

 

 

これでは、俗に言う『恋する乙女』ではないか―――――。

 

そう、恋。

 

 

たぶん、私は八雲紫に恋している。

届かない恋。届くことの無い恋。届いてはいけない恋。

 

 

叶うはずの無い、恋。

 

 

だから、私は八雲紫を『愛』している。

「ちょっと霊夢聞いてる?」

それに気付いたのは、いつごろだろうか?

ソレさえも曖昧になるほど、この妖怪とはずっと一緒にいた。だから、きっと想いは少しずつ募っていったのだろう。

確か、馴れ合いが始まったエピソードがあったはずだが忘れてしまった。

ただ、私の中には決して外に出ることの無い思いだけが、心の内で成りを潜める。

 

「ああ、ごめんごめん。少し考え事。で、どうしたわけ? 随分と深刻そうだけど。好きな奴にでもふられたの?」

 

悲しそうな表情を押し隠して、微笑む紫をからかう。

いつもは安っぽい笑顔を貼り付けているくせに、そんな表情をされるのは嫌だった。

 

しかし、悲しみは一層深まってしまった。

 

 

「ね、霊夢」

 

もう、その悲しみを隠さないで私の顔を見る紫。

「!」

私はその顔に涙が一筋、伝っていることに気付いた。

 

「私、もうすぐ眠らなくちゃいけないの」

 

 

 

その言葉を理解するのに、私は少しだけ時間を要した。

なんといったのか、ソレが何を理解するのか、理解できない。理解したくない。

だから、現実から逃避した。

「いつもの冬眠?」

しかし、それはあっけなく失敗する。声が震え、動揺を隠し切れなかったのだ。

「ううん、少しだけ長くなるわ」

紫は少しだけ苦笑すると、外を見た。

すっかり、暗くなり闇が世界を支配する夜になっている。それほど、時間が経過したのか。

 

一秒は無限に感じた。

 

私はその紫の横顔を見て、理解してしまう。

「どれくらい眠るの」

理解してなお、認めたくなかった。

 

会うだけで満足だった。

見るだけで満足だった。

だからこそ、想いを伝えず。大切に育ててきたというのに。

 

時を経て、互いにあのころは馬鹿だったと言い合えるまで、子供とか家庭を築いて、それなりに気持ちが落ち着いてきたら、あの頃は好きだったんだよとか言ったりして。

 

それで満足だった。

 

私は諦めていた。

 

魔理沙みたいに、一歩踏み出すことは出来ない。だって、私は人間である前に博麗の巫女だ。

寿命とか、種族の問題の前に私は博麗の巫女という役目がある。

それを捨てるほど愚かではないし、青臭くない。我慢ぐらい昔からずっとしてきたのだから、一つの想いぐらい容易く抑え付けられると思ってきた。

 

 

 

でも。

 

 

 

 

でも。

 

 

 

 

でも!!

 

 

 

「百年か、千年。分からないわ。とにかく長い間」

 

見ることさえも、

会うことさえも出来ないのなら――――――――。

 

 

いっそ、狂おしい想いに身を任せてしまおうか?

 

 

 

いっそ、その体に自分の存在を刻んでしまおうか?

 

 

いっそのこと、巫女とか妖怪だとか考えずに、ただ想うがままに我慢をせずに、愛してしまえば、恋してしまえば、楽になれるのだろうか?

 

「――――――――そう」

 

出来ない。

 

そんな、ひどいことはできない。

 

紫が泣いている。

あの、紫が泣いている。

きっと、嫌なのだろう。眠りたくないのだろう。

だけど、仕方が無いと。

 

あの紫が決心したのなら。

 

私如きが、その決心を打ち破ってはいけない。

だって、紫が涙してまで決めたことなら。

 

紫を思う私は笑顔で見送らなければならない。

 

永遠の眠りに誘われる境界を手繰る一人の妖怪を。私が愛した、一人の女性を。

だから、私は涙をこらえて。

「いい、夢が見れるといいわね」と、精一杯の笑顔で答えた。

 

 

 

「ねえ、もしも私が貴方を好きだといったらどうする?」

それは唐突で、私は心臓がはねる想いだった。

だって、それは私が今までひたすら隠していた感情だから、伝えてはならない。

それに、同じ想いを紫が抱いていてくれるかが心配だった。

でも、もし紫が同じ思いでいてくれたのなら。私は自分の責務も捨てて、思いにゆだねることが出来てのだろうか?

 

 

 

駄目だ。

 

 

 

私は、弱虫だから。

背負った責務を捨てる度胸も無い。

「無理よ、そんな、こと―――――――。私は人間であり巫女。そして紫は妖怪じゃない」

 

紫は、その涙を隠さず。

 

 

悲しそうな、微笑を残して。

 

 

さようなら。

 

そう告げて、スキマに消えていった。

私はその手を握り締めることも。呼び止めることもせず。最後まで精一杯の笑顔を浮かべて見送った。

 

もう、目覚めることが無いかもしれない。

 

そう告げた紫は、涙を流した。

理由は簡単。

単純な妖力不足。そして、その体の限界が所以だった。

 

人間を食べることを止めた八雲紫は、妖力が極端に減り、もはや冬だけの眠りだけでは賄えないほど妖力が不足している。

そして、妖力の不足のせいで器である体が既にボロボロなのだという。

 

 

だから、永遠に近い眠りに付かなければならないのだと。紫は涙を零しながら教えてくれた。

いつもみたいに明るい雰囲気からは考えられない紫の姿に私は呆然としているしかない。

だけど、私は最後まで涙を流すことなく。

 

 

―――――その時、頬にポツリと冷たい雫が零れ落ちた。

 

空を見上げればさっきまでの星空はどこかに消えて、雨雲だけが浮かんでいる。

次々と雨が降り注いだ。

私はその凍える雨雫に全身を浸して、服が肌に張り付くまでに濡れる。

 

 

その頬を濡らすのは熱い雨。そして雨よりも寂しい雫。

 

 

 

その日、一人の巫女の為に―――――幻想郷が泣いた。

 

 

 

 

いつの間にか、私はそこにいた。

 

気付いたら、私は幻想郷にいた。

そして、巫女になっていた。

 

おかしな話だ。

気付いたらそこにいて、巫女になっていたなど馬鹿らしくて嫌になる。

十にも満たない私は自分の無様に笑いながら、手始めに空を飛んでいる鳥を弾幕で撃墜した。

鳥は妖怪だったが、決して悪い妖怪ではなかったはずだ。

と、そこでおかしなことに気付く。

どうして、自分は気付かないうちにそんなことを知っていたのだろうか?

どうして、この鳥が妖怪で、しかも悪くないなんて分かったのか。

 

 

記憶が無いわけではない。

いや、むしろ鮮明に覚えている。

私は昨日母と一緒に――――――をしていた。

そして父と一緒に―――――――を言い合った。

そして友と一緒に――――――をして遊んだ。

 

ズキリ、と頭が酷く痛む。

 

頭に響いたノイズと思い出せない友の顔、両親の顔。鮮明なのに、鮮明じゃない。

まるで、曇りガラスの向こうにある映像を見ているようだ。

 

なんだというのか?

 

ここはどこで、私は誰なのか。

泣きたい気分だった。

 

私は自分の体を自分自身の腕で抱いた。

 

とにかく、寂しかった。

誰もわからない。意味も分からない。自分自身さえ曖昧なこの世界に一人ぼっち、酷く寂しくて―――――――悲しかった。

 

 

 

その時。

 

「こんにちは。いえ、今はこんばんわかしら?」

いきなり、唐突に真上から声がしたかと思い見上げてみれば。

 

 

そこには、恐ろしく美しい女性がいた。

 

途端理解した。

この女性は人間ではない、と。

「誰?」

私は、まるで刷り込まれた人形のように、懐から札を出す。

 

しかし、

「あらあら、今回の博麗の巫女は優秀でいいわね。さすが私が選んだだけではあるわ」

女は圧倒的な余裕の笑みで片目を閉じると。

 

 

 

 

「さて、『博麗霊夢』死にたくなければ、その力を制御して、逃げなさい?さもないと本気で死ぬわよ?」

 

 

それは本当に一瞬だった。

私は知らないうちに結界を敷き、弾幕を防ぎ。

女は楽しそうに私を追い詰める。

 

その一瞬にも満たない殺し合いに、私は敗北し満身創痍で地面にひれ伏し。

「あら、もう終わり? 全く、今代も不良品かしら? 最近外の世界でも空け者しかいないから困るわ。その中で潜在的には最高の逸材だったのだけれど、如何せん若すぎたわね。………さて、どうするかなこれ」

 

 

随分な扱いだ。

ボロボロになった私を地面で転がす女は、くすくすと微笑む。

 

 

 

 

刹那、暴力的な力が湧いてきた。

 

 

もう少し語力が豊かならこの煮えたぎる力が『怒り』だということを理解できたかもしれない。

けれど、それを理解できるほど当時の私はできてはいなかった。

 

ただ、

目の前の人物を倒さないと。

間違いなく死ぬと、理解して。

 

私は起き上がった。

 

 

そして、知らずに呟く言葉は。

 

 

 

「大結界「博麗弾幕結界」!!!」

 

 

嵐というより、台風といった方がいい純粋な力と暴力的な弾幕が織り成す技。幼さに任せた無茶な術の発動に、女は目を見開き、そしてそのまま弾幕に飲み込まれた。

 

 

「あああっつ!ぐ、ふがっ、!」

女が放った弾幕をもろに喰らっていた右肩に激しい痛みと、無茶な術の発動からズキズキ痛む頭が私を苦しめる。

 

 

 

寂しかっただけ。

 

悲しかっただけ。

 

苦しかっただけ。

 

自分が誰なのか。

ここはどこなのか。

一体何の為にここにいるのか。

どうして私がここにいるのか。

 

分からないことが多くて、

でも、それよりもただ一人ぼっちなのが悲しくて。

 

 

倒れた自身の体がもう長くないことを知った。

鼓動が弱くて、吐く息も微か。

 

うつ伏せで死ぬのは嫌だった。

押さないながらに限界を悟った私は、最後は月を眺めながら死にたいと願って仰向けになる。

しかし、そこには大きな月なんてどこにも無くて。

 

 

そのかわり。

 

 

無傷で微笑むあの、女がいた。

「おもしろいわね。その年であの大結界を手繰れるなんて。歴代でも稀有よ? その無茶っぷりと、強大な力は。………おもしろいから、貴方はこのまま博麗の巫女として留まる事を許すわ」

 

女が手をかざす。

その途端、傷が見る見るうちにふさがっていく。

不思議な光景だった。

 

「じゃあ、友達になりましょう」

 

そしてにっこりと安っぽい笑みを浮かべた。

「う、あ」

それは私が一番求めていた答え。

私が一番言ってほしかった言葉。

とにかく、曖昧な世界にいる曖昧な私を、正確にしてくれる人物が必要だった。

『博麗霊夢』と、名さえないこの私に、名を授けてくれる存在が。

 

私は涙を流した。

まだ自分のみに何が起きたのか理解できなかった、けれども泣き方さえ忘れ、寂しいという慟哭さえも、忘れた私には。

 

この存在こそ、全てになった。

「わ、え? 何で泣くのよ? もしかしてまだ傷が痛むのかしら?」

慌てて涙をぬぐってくれるその慌てる姿が、面白くて。

私は泣くのをやめる。

 

もう、孤独ではないから。

誰かが私を認めてくれるから。

そして、涙をぬぐってくれるから。

 

 

それは一人の子供が外の世界で行方不明になったと同時に、幻想郷に今代の巫女が生まれた日。

そして、一人の少女が一人の妖怪に恋した日。

 

 

 

『博麗霊夢』が生まれた日の話である。

 

 

 

そうだ。

 

目覚めた私はようやく、理解できた。

どうして巫女である私が妖怪に恋していたのか。愛しているのか。

それは、あの幼き日。

気付かないうちに、孤独だった私を救ってくれた女性。

 

寂しいと、叫んだ私に友達になりましょうなんて言ってきた女性――――八雲紫。

 

あの日から、私はあの妖怪のことで頭がいっぱいだったに違いない。

 

なんで忘れていたのだろうか?

泣き方も忘れていた私を泣かせて、なおかつ涙をぬぐってくれたのは、他でもない八雲紫だったというのに。

 

 

 

私は、何をしているんだ。

 

 

「馬鹿っ!」

自分で自分を殴る。

 

その痛みでようやく目覚めた。

 

私は紫に涙を拭ってもらった。

名前を授けてもらった。

居場所を与えてもらった。

 

なら、今度は私が紫の涙を拭ってやる番だ。

 

嫌だと泣いていた。

悲しいと泣いていた。

それでも、仕方ないと笑った紫の悲痛な慟哭を。

 

 

 

 

――――――――――その、悲劇を打ち砕いて、破ってやる。

 

 

 

 

 

 

「だから、もう泣かないで紫」

 

私は走り出す。

悲劇がどうした。

種族がどうした。

巫女がどうした。

妖怪がどうした。

 

私は愛している。好きだ。恋している。

 

 

 

焼くも紫が大好きだから。

全て乗り越えて、全て受け入れて、そして紫が起きていられるように。

その巨大な壁をぶち壊して。

 

 

 

 

この、想いを伝えよう。

 

 

 

 

走って、走って。

 

たどり着いた、マヨヒガに私は乗り込む。

「待て。博麗の巫女が何のようだ」

途中で九尾の式神が邪魔してくるが、それすら一発でケチョンケチョンにして、奥にずんずん進む。

 

「ゆかり―――――――――――――――――――――――――――――!!!」

 

広い家の中で、一番でかい襖を開け放ち、中に入る。

そこには外から見るにここまで広い部屋があるとは思えなかったが、それほど大きな部屋には一つの布団が敷いてあり、黄金の金髪が広がっている。

そして、微かな吐息が響いていた。

 

すでに、永き眠りに付いた後のようだ。

 

 

 

 

だが、それがどうした。

 

 

「おいっ! 起きなさい! この馬鹿妖怪」

 

その肩を掴んで起こす。

 

それでも起きない。大声出しても起きない。どうしても起きない―――――――――。

なら、起こしてやる。

 

「馬鹿―――――――んむ」

 

 

私の唇と、紫の唇が触れ合う。

優しい接吻。触れるだけのそれは、とても神秘的で。

一瞬の交わりでさえ、無限のときのようで。

とても幸せな気持ちで、心がいっぱいになっていく。

 

 

 

数ミリしかない私と紫の距離。

視界いっぱいに紫が映って、恥ずかしくなるが。これはお姫様が目覚めるためのキスなのである。

それならば、さしずめ私は『王子様』か。

 

 

「ん………―――――」

瞼が痙攣するように震えてから、その紫色に輝く瞳と目が合う。

 

 

「――――――――――――――――――――」

「………」

 

そして、無言。静寂。

 

 

私は口を開く。

 

 

決めてきた、その言葉を言うために。

「もう、泣かなくていいから」

泣いていた私に対して、紫はそう言って手を差し伸べてくれたから。

私も、紫に手を差し伸べる。それが、私の決心。

 

「どうして?」

 

紫は悲しそうに問いかけてくる。まるで、傷を見るように痛々しく、そして憐れむような表情を浮かべて。

確かに、私の選んだ道は茨の道だ。

妖怪と共存し、共に支えあって生きていく巫女など本来ならありえないし、人間も納得しないはず。それに、妖力不足を解決するのだって一筋縄ではいかないものだ。

それでも、それをすべて知って私はここにいる。

 

紫を――――――愛しているから。

 

終わることの無い悲劇にだって、この命をささげて。

 

ただ立ち向かう。

紫が――――――好きだから。

「アンタが好きだから」

 

掴んだ肩は震えていた。

見詰め合った瞳は涙でぬれていた。

再びふさいだ唇はとても温かかった。

 

どんな困難も乗り越えて、共に生きていくと誓うから。

だから、永遠の眠りだなんて、寂しいこと言わないでよ。

いつの間にかそばにいて、いつの間にか想っている。

そして、これからも当たり前のようにそばにいて、微笑んで、愛し合いたい。

 

 

 

 

―――――――――もう、二度と離さない。

 

 

 

静寂が支配する。

 

私達はただ、無言で抱き合って。

その温もりが狂おしいほど愛しかった。

 

「ねえ、霊夢」

「………ん? 何?」

 

紫は私の腕の中で少しだけ身じろぎすると、くすくすと微笑んだ。

「私のこと、好きだったのね」

「………―――――言うな、馬鹿。恥ずかしいじゃない」

 

 

紫から好きだといわれたとき、私は押し倒して激情に身を任せてしまいたかった。

 

「それを押さえつけるので精一杯だったんだから」

「………そう」

 

 

 

その優しげで、満足そうな表情を見て、私は安心する。

(紫を、救えることができたんだ)

でも、本題はこれからだ。

わかっている。一番の問題はそこ。

どうやって妖力不足を補うか。それを解決しない限り本当の意味で紫は救えない。

 

 

 

「ねえ、霊夢」

 

 

 

 

 

途端、下半身に違和感を覚えた。

 

 

「!?」

むずがゆい感覚と、物凄い違和感。

嫌な汗が頬を伝い、紫の豊かな胸に落ちていく。

(なんだ、これ)

私は、紫から身を離し下半身を確認する。なんというか、非常に嫌な予感がする。

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」

 

 

「うふふ、だって滅茶苦茶にしたかったんでしょう? いいよ、霊夢にだったら犯されても。それに、妖力を補うためには精力が必要だしね」

 

つまり、なんだ。

 

「つまり、ソレで私に精を注ぎ込んで。いっぱい。そうすれば、少しはましになるから」

 

 

 

 

つまるところ、私の下半身―――――というか、性器のあるところには本来あってはならないものが生えていたのだ。

私は女だ。あくまで女で、ましてや男の性器をもつふたなりなどではない。

だから、こんなものが生えていること本来ありえなくて、更に勃っているなんて。

 

 

「簡単な話よ。男と女の境界をいじっただけだから、異常でもおかしいわけでもないから安心して」

 

安心?

 

安心なんて。

 

 

 

「安心なんか出来るか! ………んっむ!?」

「ん―――――うふ、だって私の為に何でももしてくれるんでしょう? 私の為にどんな困難でも乗り越えるって言ってくれたじゃない。だから、私の為に霊夢の精子を一杯注いで」

 

私の拒絶も唇でふさいで、そんなことを言いやがりますか、この馬鹿妖怪は。

 

「いいわ。その挑戦受けてやる」

 

でも、それが紫の為になるならいくらでも。

 

「私に喧嘩を売ったこと後悔させてあげる」

 

 

 

 

 

善がり乱れ、声が潰れて啼けなくなるまで、私自身で犯しつくしてあげよう。

 

 

妖力とは妖怪に宿る力である。妖怪が生きるためには妖力が必要であり、なくなってしまう事は即ち死を意味している。

それが、死ににくい妖怪たちにとって明確な終わりとなる。

ならば、人はどうだろうか?生きている以上妖怪と同様、生きるための力が必要である。しかし、妖力を持っている人間などいない。そもそも、それを人間とは言わない。

では、人間が持っている生きる力とは何か。

 

 

それは精気である。

 

昔の物語にもあるように、人の精気を喰らい生きる妖怪。

妖怪の本筋とは人を惑わせ、狂わせ、おぼれさせることである。

すなわち、人間の精気――――――つまり体液、血液、精液、愛液にこそ命の塊は宿るのである。

人間を食べることで妖力を蓄えることが出来るのならば、精力にて妖力を蓄えることも可能。

むしろ血液よりも、精液や愛液のように子孫を残すという人間の本能の方がより高い栄養分となる。

 

「んふん、い、いいわ霊夢っ、うぁ、はぅん、ふあぁん」

 

ゆえに、私は今紫を犯している。

手始めに、服を剥ぎ取り口内を蹂躙する。

 

私が舌で紫の唇をノックすると、紫はおずおずと口を開いてくれた。そのわずかな隙間に私は舌をねじ込む。

「ふ――――――んぁ、っあ」

 

――――――ぴちゃ、くちゃ、ぴちゅ。

 

水音が静かな紫の寝室で響き渡る。互いの吐息が近く、同時に触れ合う肌と肌が燃えるように熱かった。

「あつい――! はぁ――! うくっ、はぅっ……あぅんっ」

右手で紫の綺麗なピンクの乳首をいじりながら、深く交わったまま口を離さない。

そろそろ、呼吸がきつくなってくるころなので、私はそっと唇を離した。

しかし、舌先はその余韻を惜しむように絡まり、完全に離れたときには、銀の橋が互いの唇と唇にかかった。

余程深く交わっていたらしい。

「ねぇ、気持ちよかった?」

惚けたように、顔をだらしなく緩めた紫を見て少し苛めたくなって、そんなことを聞く。

そして、同時に乳首をつねり上げた。

「あぁ――っ、ぁっ! やあ、くはっ! あく――っ」

 

すると、苦しそうに気持ちよさそうに喘ぐ紫。

もう、愛しさで狂ってしまいそうだ。

 

「ねえ。答えてくれないと、止めちゃうよ?」

「あん……!うぁん――っ、ふぁう……っ! は――! 許し、てぇ!」

チュッ―――――――と、軽く乳首にキスをする私。その時紫の体が震えた。

随分な乱れようで、感度も良好。むしろ良すぎて不安になってくる。

もしかして、紫は――――………。

「アンタさ、もしかして、はじめて?」

 

愛撫の手を止めて問いかけると、紫は顔面を赤く染めた。まるで、純粋な乙女のような反応に私はドキリと胸が高まるのを感じる。

―――――――まったく、こいつは私を何回堕せば気が済むのだろうか。

「そう、なんだ」

「許しっ、ひゃふぅ、あついっ――はぅんっ、ひゃふ!」

反応から、紫がはじめてであることを知って、私のテンションが上がってくる。

こんなに可愛い紫を私しか知らないこと。

こんなに美しい紫を私だけが愛でること。

その全てが、私にこれ以上ないくらい幸せにしてくれた。

 

だから、私が紫に女としての悦びをあたえてやろう。

「ねぇ、そろそろいくけど大丈夫?」

冷静を保って問いかける。理性は既にはちきれそうになっていたが、紫の初めてをもらうのだ。きちんと優しく奪ってあげなければ。

「ん、………霊夢になら、全部上げる。だから、私を愛して、頂戴?」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――プチ。

 

 

 

 

 

 

理性という名の糸が音を立てて切れる。

「OK。ごめん、優しくなんてできない。覚悟しなさい、紫。私が貴方を食べるから」

 

足を開かせる。

既に、紫のヴァギナはどろどろになっていた。

もう受け入れ可能となっているようで、安心する。少しでも痛くなければ、紫を苦しめずに済む。

「じゃあ、いくよ」

私のアレは痛々しいまでに反り起ち、先走り液でテラテラと輝いている。

ソレを、私は紫の秘部にあてがう。

「うん、来て。来て――――――霊夢。好き、すきぃ」

紫は泣いていた。でも、昨日の涙とは違う。

喜びの涙。私は紫を救えるのだろうか?この愛おしい人に真の意味での微笑みを取り返してあげることは出来るのだろうか――――――――――、いや、するんだ。

 

私は弱虫で、自分の責務がとか何とか言って逃げて来たに過ぎない。

そんな遠回りで、弱虫な私が得た答え。

強靭な壁をも、共に乗り越えると誓ったその想いで私は紫を救おう。

 

「私も好き。だから、私の全てを貴方に挙げるから。もう、泣かないで」

汗で張り付いた髪の毛を掻き分けて、白いおでこを出す。

そして、私はそこに口づけをした。

 

「じゃあ、今度こそ行くから―――――――んっ」

「ひゃぅあ――ぃいっ、やんっあっ……ひうぅ…………痛っぅ〜〜」

 

ブチリと、勢いよく突き出した私のペニスが紫の処女膜を破り、中から鮮血が零れる。

紫の顔には悲痛な、痛みと快感で歪む顔。頬には一滴の涙。私は一度腰を引いて、しばらく落ち着けようかとしたが………。

紫の足が私の逃げ腰を捕まえる。

「駄目。逃げちゃ、嫌。霊夢、このまま、来て」

 

息も絶え絶えに辛そうな顔のまま微笑む紫。胸が締め付けられる。行く当ての無い狂おしく激しい想いを、そのまま紫にぶつけた。

 

「きゃうん! うくぅっ、あぁんっ――くふぅ! ふん」

「っは、ぐぅ」

処女で、締め付けが強すぎるからなのか、私自身も動くとすぐ果ててしまいそうになるが、せめて、同時にと歯を食いしばり耐える。

 

激しい往復。

「うふん……っ! きゃふっ、はふんっ……あ……っ! ひゃあんっ!」

溶け合うかのごとき交じり合い。

脳天を貫く快感に、脳が蕩けてしまいそうだ。

 

いや、実際に溶けていたかもしれない。ドロドロと紫と一つに溶け合って。愛し合って、睦みあって。

紫の口の端からはだらしなく涎がたれていた。

なんて、甘美で扇情的で魅惑的なのだろうか。私は何かを求めるように紫の奥を更に深く突き続ける。

「きゃふんっ! くはぁっ! はふん……っ! つ……っ、ぁあああ!!」

グッ、と中が殊更強く締まる。どうやら終わりが近いようだ。私も………そろそろ限界だ。

 

「くっ、イク!」

「ぁあ! きてっはぅ、ふん、ふくん……っ、はふ、うんっんぁあっひゃぅあっ、早くっ!」

ガクガクとゆれながら叫ぶ紫。

私も、これ以上ないくらい強く貫く。紫を追うように、更なる快楽を求めて。

「あああ、ひゃふぅ…………すきぃ! んあ……っ、やあ……っ!もう、駄目!」

「くっすきっ! くふぅっうふっつっ……!くぅうっ」

「はあぁっひゃっあぅうっんく、はぁ、ぁぅああぁあぁあああああああああああ!!!」

 

 

 

紫の嬌声が部屋中に響き渡るのと同時に。

ペニスから何かが迸る。脊椎に到達する快感に私は震え慄き、歯を食いしばる。

歯を食いしばらなければ、何もかもが出て行きそうで怖かった。

 

そんな、数分間の射精も終わり、ぐったりとした紫からペニスを抜く。

 

まだ、虚脱感が体を支配していたけれども、入れたままにすると大変なことになりそうだ。

「ん、ぁ」

ゴポリ、と抜き出される。

 

と同時に、それは消え去っていった。

「ふふ、一杯注がれたものね」

あるのは、私の濡れた女の部分だけ。どうやら、効果が切れたというか、紫が教会を元に戻したのであろう。

しかし、快感は抜け切るどころか強くなっていた。

 

 

 

「さて、今度は私が霊夢に女の悦びを教えてあげる番よね?」

「は? でも、それじゃあ意味がないんじゃ?」

「うふふ、気にしない気にしない。大丈夫、これであと二百年は大丈夫だから♪」

 

そう言って今度は紫が私を押し倒してくる。

その目はどこか据わっていた。

 

どうやら、拒否権はないようだ。

 

 

 

 

 

 

その日、二人の嬌声が尽きなかった。

 

 

 

 

 

「おはよう」

「おはようございます」

「お、おはやうごじゃいます!」

 

起きてきた我が主を迎えるのは式神である八雲藍と橙。

その肌ツヤ感に多少の疑問は感じても、問いかけることはしない。これ、式神の鉄則。

 

と、藍は自分の心の中で自分自身を誇った。

その主の後ろから妙にもじもじした博麗霊夢が現れるまで。

「き、貴様、何故紫様と共に!? ………そういえば、昨日はよくもっ!」

 

そう、藍は昨日霊夢に弾幕で勢いのまま撃墜された挙句、吹き飛ばされて夜明けまで気を失っていたのだ。(なので、昨日のことは知らない)

 

橙は赤くなったり、もじもじして、藍の方をチラチラ見ている辺り、何があったのかは知っているだろうが、残念だが藍は気付いていない。

「お、おはよ―――、えっと。きのうはごめん」

「謝って済むか!! ええい、一体何をしにきた!」

自らの失態と、博麗霊夢が主と共に寝室から出てきたということから沸点を軽く超えた藍は、胸倉を掴みかねない勢いで霊夢に突っかかるが、紫がそれを遮る。

 

「私の恋人に怒鳴ることは許していないわよ? 藍。自重しなさい」

 

 

 

霊夢は、あちゃあと後悔し。

藍は、へ?と呆然とし。

橙は、赤いまま辺りを眺め。

紫は、長い髪をうっとおしそうに掻きあげた。

 

 

「ええぇえぇぇえええぇぇえええええぇえぇえええぇええぇえぇええええええぇええええええ!!」

 

 

藍の叫び声は、妖怪の山を超えて冥界まで響いたとさ。

 

 

魂の抜けた藍を横目に、溜息をつく。

紫の堂々とした態度には敬意を感じるが、なんと言うか少しは自重させないと、私が紫と付き合っているという噂は、妖怪の山の天狗どもに知られ、記事にされてしまうだろう。

そう、呆れながら言ったところ。

「別にいいじゃない。見せ付けてやりましょう?」

と、いつもどおり、安っぽい微笑で言いくるまれた。

 

まぁ、それもいい。

 

紫は手を伸ばせばすぐに届く位置で笑ってくれている。

今ならば聞ける。ずっと、聞きたかったあの言葉を。

――――――――――――――――何故、私だったのか。

 

そう、助けを求めれば私じゃなくたって誰かが助けてくれただろう。だったら、何も私じゃなくても良かったはずだ。

言ってしまえば、どうして私のことを?

 

「ねぇ、どうして私だったの?」

 

 

その二つの意味を兼ねて問いかける。

紫は少しの間呆然としていると、くくくっ、とあざ笑うように笑った。

「なによぅ」私はいじけた声を上げると、紫は腹を抱えながら笑いをこらえてこう答えた。

「好きだということに明確な理由が必要? 私は貴方が好きだから、貴方に救ってもらいたかっただけよ。他の誰かにだなんていや」

 

その答えに、私は苦笑した。

 

 

ああ、なるほど。

 

 

 

こいつは馬鹿なんだ―――――。

でも、そんな紫が好きだった。

だから、私は茨の道を選んだのだ。

 

紫のそばにずっといることを誓ったのだ。

 

 

―――――――――弱虫で、寂しがりやな『博麗霊夢』が選んだ茨の道。

私はそれでも選んで進む。

 

それが、私の遠回りで弱虫な愛だというなら、それを永遠に誓いましょう。

 

 

 

 

「ゆかり、大好き」

 

昔、さし伸ばされた手に。

私は再び手を差し伸べて。

 

 

いずれ来る、最後まで。

 

 

君のことを愛し続けます。

それが、私の、誓いだから。