酷くいやな予感がした。
文様が自分の目の前から消えてしまうような、そんな予感。
「これが、私の選んだ道なら甘んじて受けましょう」
迸る鮮血
それは
愛しい人の血潮。
そう、これは――――――――――――ハッピーエンドには遅すぎた物語。
■
『椛にいい事を教えてあげる』
『いいことですか?』
これは、まだ私が文様の部下になったばかりの頃。
『ええ、私が新聞記者になった理由――――――聞きたい?』
文様が私に教えてくれた。
『………はいっ! 是非聞かせてください』
『分かったわ』
夕暮れで真っ赤に燃える幻想郷の景色を、私と文様は高い木の上で語り合った。
文様が新聞記者になった理由。
それは、優しくて、寂しい物語がきっかけだったらしい。
はるか昔。
まだ、幻想郷に弾幕ごっこたるものが無く、人間は殺され、妖怪が蔓延っていた時代の話。
まだ幼く、今のような輝かしい功績も持っていなかった射命丸文は、幻想郷を自由に意味も無く飛んでいた。
興味本位で、自分たちが住む妖怪の山という箱庭から出てみたかったのだと思う。
だから、その日文様は妖怪の山を抜け出して、幻想郷を空から見下ろしていたのだという。
そんな所に一人の少女が現れた。
『初めまして』
文はその少女に挨拶をした。
ただ、なんとなく。その少女は寂しがっているように見えたから。なんとなく友達になってみたいと思ったのだ。
少女は一瞬目を見開いて、すぐに微笑む。
その笑顔が文の目には眩しくて。同時に温かかった。
文は少女がとても愛しく感じた。
一人だということ、寂しいということ、何もかもが自分と重なって。
『初めまして』
少女はゆっくりと手を差し伸べてきた。その手を握った日。文は初めて孤独ではなくなったのだ。
そして少女は博麗の巫女。
それを知ったのは、その次の日だった。
『私は気付いたらここに居たのよ。あんたみたいに生まれてから幻想郷に居たわけじゃなくてね』
『ほーほー、じゃあ、外界から来たんですね?』
少女が博麗の巫女だと知って、文は毎日のように博霊神社に足を運んだ。
人間と妖怪の境界なんて、曖昧だと少女が証明してくれるようで。嬉しくなって毎日のように遊びに行った。
文にとって少女は初めての友達だったから、大切にしたいと思っていたし、なにより少女は妖怪である文よりも儚げで、居なくなってしまうかもしれないという心配がいつもどこかにあったから。
だから、毎日通い続けたのだ。
だけど、あっちは博麗の巫女。
本来人間側に立つ存在で、偶に血の匂いを漂わせて帰ってくることがあった。
そんなある日、その日も少女は血の匂いをつけて帰ってきたが、その日だけはいつもと違った。
『私、あんたの仲間、殺しちゃった』
少女はそう呟いて、文にしな垂れかかる。少女にとって文は大切な友達だった。だからこそ、自分がしたことの罪悪感で潰れてしまいそうになっていたのだ。
文は、そんな少女に何がしてあげられるかを考えて、躊躇しながらもそれを口にした。
『一緒に湯浴み、しませんか?』
少女が自分の仲間を殺したことで罪悪感に苛まれているなら、それを取り除いてあげたい。
最早、死んだ仲間のことなど気に掛けても居なかった。
ただ、傷ついて苦しんでいる少女を安心させて、癒してあげたかったから。
そんなこと、――――――どうでもよくなっていた。
そうして、文と巫女は互いの体を流し合い。
暖めあった。
『私は好きで博麗の巫女になったわけではないの。ただ、それが私の存在している理由なのだと。私が存在している理由は、博麗の巫女としてだけ。誰も私個人を見てくれない。だけど、貴女が初めて私に意味を与えてくれた』
『それは、良かった。私自身も自分が曖昧で、どうしようもないくらい無意味な生を歩んできましたが、貴女と出会えて少しは変われたような気がします』
神社の縁側で寄り添いながら。
まん丸の月を眺める。ようやく手に入れた自分の人生に意味をくれる人と共に。
『そうして、私はそれまで灰色だった幻想郷が少しずつ好きになっていったんです』
私は夕日を見つめる文様の顔が眩しく感じた。
それは、とても幸せそうな笑顔。だけれど、少しだけ悲しみがにじみ湧いている。
その物語にどんな終わりがあるのか、私は少しだけ気になった。
でも、それを聞けば何かが終わってしまうという。
そんな予感がしていたけれど。
私は聞いてしまった。
その、悲しい物語の果てを。
『ねぇ、文』
『なんですか?』
『アンタだけは私を博麗の巫女としてではなくて、一個人として見てくれたわ。おかげで幻想郷が少しだけ好きになった。ありがとう』
それは、少しだけ年月がたったある日のこと。
いきなり少女はかしこまったように、そう呟いた。
『なんですか、いきなり?』
紅白の巫女服が、冬と春の間に吹く春風で揺れている。
その様が幻想郷に相応しく、とても幻想的で美しかった。
出会った頃よりも大人になってきた少女と、あまり変わらない文。既に身長は越され、髪の毛も随分と長くなっている。
文はそんな少女の眩しさに目を細めながら、少しだけ人間と妖怪の違いに悲しくなった。
『私は文がいる幻想郷が好き。だから、文も幻想郷のことを好きになって?』
『………―――――分かりました。私は、貴女が好きな幻想郷を好きになりましょう』
文は少しだけ、気付いてしまった。
少女の言っている意味が。
幻想郷が灰色に見えていた一人の人間と、一人の妖怪。
でも、互いがその世界を変えることでいつのまにか幻想郷は二人にとって大切なものへと変わっていた。
愛するものが存在している幻想郷。
たったそれだけでこんなにも世界は変わった。
灰色の世界はいつの間にか、綺麗な優しい色の幻想郷へと転じていたのだ。
少女の居る幻想郷を。
文が居る幻想郷を。
『『ずっと好きでいると誓いましょう』』
二人で誓った、その誓いは。
どちらかが欠けても、ずっと続くその約束は。
少女が死んでも、ずっと守られたまま――――――――――――今も存在している。
『だから私はあの子が愛した幻想郷を伝えていこうと、新聞を発行することにしたんです。といっても、ただどんな妖怪が居るとか、どんな人々が居るとかは、私じゃなくて稗田家の方々がやっていますからね、私は違う方面から幻想郷を書き記すことにしたんです。それが新聞を発行するに当たる、理由………ですかね』
椛は少しだけ絶望した。
つまりそれが、新聞を書き続けている理由なのだとしたら文の心にはいつもその博麗の巫女が居続けている事になる。
だったら、もう自分の思いは二度と伝わることが無いんじゃないか。
椛は、暗い闇の中に落ちていく。
そのあと文の、
『あの子が居なくなってから、ようやく私の世界が再び色づきそうですがね』
という呟きさえ、耳に届かず。
■
夢から目覚める。
その夢は自分が文様への好意を諦めたときの夢。
もう、届かないのだと知ってしまった。あの辛い思い出が今更夢になるなんて、どうしたのだろうか?
「どうかしたの? 椛」
隣で寝そべっているにとりが尋ねてくる。
布団のスキマから白い肌についた赤い痕が諸に目に入って、少しだけ恥ずかしくなった。
まぁ、自分がつけたのだから自業自得なのだが。恥ずかしいものは恥ずかしい。
少し自分は抑制すべきだな、と実感した。
「そうだよ。椛ったらあー言うときだけは激しいんだから。流石、いぬっ! って感じだよ。今日だって、恥ずかしいから嫌だって言ったのに、後ろでするし………――――」
それは仕方が無い。だって、狼である私にはあのやり方が一番しっくり来るのだから。
それにしても、良くそんな事を恥ずかしがらずに言えるものだ。にとりは。
「はぁ? だって、椛には全部見せてるじゃない。今更何を恥ずかしがるんだよ」
まあ、そうだけどさ。
「それにしても今日の椛、随分と激しかったけれど………どうしたの? もしかして、こぶさただったの?」
「ん、まあ、そんな感じかな」
私にとっての拠り所は、河童の河城にとりだ。
こういう関係が始まったのは、文様が私のことを初めて抱いてから少したった頃だろう。
文様の心が既に私には遠いと知っているのに、文様が私の体を求めてくれた事には素直に嬉しかった。
だけど、それが性欲処理だけなのだと思い始めてからは、少しずつ鬱になり始めていた。
そんな所に、にとりが現れ慰めてくれたのだ。
『体だけの関係だと割り切って、遊べばいいさ』
そう言って、私は体だけの関係としてにとりや、にとりの友達だという妖怪の山の巫女とも体の関係で遊んでいた。
そうすると、文様との交わりも大して考え込まずに楽しんで出来るようになった。
「へぇ、珍しいね。何? 天狗の先輩とは最近やってないんだ?」
は、はっきり言うな。
恥ずかしいだろう。それに、やるとか犯すとか、野蛮な言い方はやめてほしい。
私はにとりのカラッとした態度とあっけらかんとした態度はあまり好きになれない。
それ以外。割と人の心配をしてくれるところとかは好きなんだけど。
まぁ、嫌いだったら体さえ重ねないけど。
「ふぅん、それって飽きられたって事?」
「いや………違うと思う。大体、この三日間見かけていないし、それ自体変だからもしかしたら異変に巻き込まれているのかも」
「そっか、じゃあそろそろ帰るよ。今日中に仕上げなきゃいけないものもあるし」
そう言って、にとりはいそいそと着替え出て行ってしまった。
相変わらずドライだ。
まぁ、体を重ねて快楽を得るだけの関係なのだから仕方が無いか。
『私はあの子が好きだった、幻想郷をカメラに収めていきたいんです』
天井を眺めながら、文様が言っていた言葉を思い出す。
文様の心の中にいるのは、その少女。
今は亡き博麗の巫女なのだとしたら、私の恋は―――――――。
「絶対に、実らない」
■
「本当に、いいの?」
大天狗が再び問いかける。
私はそれに対してしかと頷いた。
「確かに今まで貴女ほどの実力者がただの新聞記者を勤めているのか、分からなかったけれど、それにはそれなりの理由があると思っていたんだけど」
それは、一人の少女との約束のため。
私はずっと幻想郷の出来事を記してきた。
彼女が好きだった、幻想郷を好きでいるという約束のため。そして、その誓いの形が文々。新聞だった。
だけれど、今の私に文々。新聞を書くことは出来ない。
何故なら、今の私には幻想郷を愛せるほどの余裕がないからだ。だから、私は少しの間だけ頭を冷やすために幻想郷の外の世界へ近代文化の情報収集に行ってくる。
ただ、それだけ。
「だけど、貴女が思っているほど外界の任務は簡単ではないのよ?」
「分かっています。危険………なのでしょう?」
ただ、それだけだが。近代文化の情報収集とはただの上書にすぎない。
真の目的は幻想郷の存在を知り、乗り込もうとする人間達の殲滅。それが任務の目的で、下手すれば死ぬ可能性もある危険な任務。
秘密裏で行われる任務は、誰も知らないが外界の任務に就いた天狗だけが知る事項である。私も今はじめて知った。
だからこそ、大天狗は私に改めて問いかけているのだ。
「だからこそ、私は部下を外し、単体で任務に挑むのです。ようするに――――――その、人間どもを殲滅してしまえばいいのでしょう?」
この任務には白狼天狗ように非力で、動体視力が高いだけが取り柄である天狗は参加できないことになっている。
それに対して、射命丸文は任務への参加要請が降りた頃から、随分と期待されていた人材だった。
幻想郷一のスピードと、その強力なスペルカードを持ってすれば万の人間など烏合の衆。
軽く殲滅できるだろうと予想されていた、優秀な天狗である。
今回、ようやく任務についてくれたのはありがたいが、どうも様子がおかしいことを大天狗は察知していた。
「だからこそ、私は部下を外し、単体で任務に挑むのです。ようするに――――――その、人間どもを殲滅してしまえばいいのでしょう?」
確かに、天狗にさえ怖れられた射命丸文だが、見方にすれば心強い彼女から今、発せられるオーラはどす黒く、激しい感情によって燃え上がるように発せられた禍々しい殺気。
ここで、自分が任務の参加を断れば確実に殺される。
そんな、幻覚さえしてしまうほど、今の射命丸文はおかしかったのだ。
大天狗は、その殺気に気圧され仕方が無く任務への参加を許可してしまった。
「では、一週間後に外界の任務に就く事を任命します」
■
一週間。
あまりにも遅すぎる。
でも、任務が通っただけましか。
あの子が愛した幻想郷を守る任務。
そして、愛しい椛から離れる口実。
これ以上近くにいれば、きっと私は壊れてしまうから。
椛が私を上司以外に見ないあの瞳を見るのはもうこりごりだった。
それに、私のせいで椛が傷つくのなら私は消えたほうがいいのだ。お互いのためにも。
私が幻想郷を好きでいるために。
椛が幸せに楽しく暮らせるために。
私は、幻想郷を、去ろうと思う。
「だけれど、一週間。それまでに椛に会わなければいいのですが―――――」
まぁ、新聞を書いている途中だといえば椛は無理やり中に入ろうとはしないはずですから。
どうにかごまかすしかありませんね。
私は帰路に就く。
すっかり夕暮れになり。
私は少しだけ寄り道をした。
それは、大切な思い出話を椛に話したときの場所。
高い木のてっぺんで語り合った。
あの子が死んで、長いとても長い時間が流れた。
私の世界はあの子のいないせいで再び翳っていた。新聞を書くことにだって意義を感じなくなって、いつまにか箱庭に閉じこもっていたときの私に戻りそうだった。
だけれど、そんな私にようやく現れた道標。
「ねえ、■■――――」
忘れかけていた名前を呟く。
それはとても懐かしい名前で、同時に愛しい響き。
「私、好きな人が出来たんですよ。貴女似でとても真摯で、真面目で可愛い女の子。貴女とは違って少し真面目すぎるところもあるんですけれど」
誰ともいわず語りかける。
気付けば頬に涙が伝っていたが、気にしない。この場所は私と椛しか知らないのだから。
それに、椛がこんなところに来るわけがない。だから、少しぐらいボロを出したところで誰にも文句なんていわれないだろう。
「私は貴女との思い出の為に、そしてあの子の為に幻想郷を出ようと思うんです。幻想郷に乗り込んでこようとする人間達がいるみたいで。それを倒すために戦うんです」
思い出を私自身が穢す前に、私は幻想郷を去るのだと。どこにいるのか分からない、あの少女に語りかける。
「危険な任務です。もしかしたら死ぬかもしれない。でも―――――――」
顔を上げる。
さっきまで感じていた黒い思い、激情はいつの間にか晴れ晴れとしていた。
「貴女の好きだった、この幻想郷を守る為に。私は幻想郷から去ります」
戻ってくるけれども、と心の中で呟いて。
少しだけ、自分の気持ちに整理がつくまで外界の任務に就くというだけ。
落ち着いたら椛にこう言ってあげるんだ。
「ありがとう椛、もうあなたを私から解放してあげる」
って。
それが一番、私にとってもあの子にとっても一番言い選択肢だから。
「それはどういう意味ですか」
その声に。
その顔に。
その視線に。
私は動けなくなってしまった。
「も………、みじ。どうして」
いつもよりも、冷たい視線。
その視線が私の胸に突き刺さる。
全てが見透かされているようで、少しだけ体の芯が熱くなった。
「それよりもさっきの言葉。どういう意味ですか、文様。説明してください」
冷たい声音、冷たい視線。いつもより数倍冷徹な表情をした椛が、私のところにジリジリと迫ってくる。
椛がどうしてこんなところにいるのか、そんな事考えられなかった。
ただ、温厚で優しい椛が椛じゃないみたいで、凄く怖く感じてしまう。
「――――――」
「言えませんか」
椛がうつむく。
ギリッと歯軋りをして、私をキッと睨んだ。
「まだ、貴女の心はあの人間に囚われたままだ。なら――――――」
「っ!」
椛が私を押し倒す。
私はバランスを崩し、高い木から落ちるが、すぐ下に大きな木の枝があり、そこは三人が寝転んでもまだ余裕があるほどの太さがあった。
「椛、何を――――――」
そんな所にいきなり押し倒され、私はようやく冷静になれた。
のしかかる椛を、妖力を込めて睨み、行動に躊躇させ、その隙に逃げればいい。
しかし、その楽観的考えは。
椛が私の服を破るという行動で、かき消されてしまった。
■
昼にあんな夢を見てしまったせいか、私は少しだけ寄り道がしたくなった。
それは、文様があの人の話をした高い木の上。
あの木は随分の高いのに、幹も枝も太くて、昼寝にはもってこいの場所だ。
だけれど、あそこに行くと文様が愛おしそうに話したあの人の事が頭によぎってしまうから、あまり近寄りたくなかったのだが。
今日はなんとなく行ってみたくなった。
しかし、まさか偶然文様に会えるなんて。
木の幹に隠れて文様を覗き見る。
文様の頬には涙が伝っていて、その様子もいつもよりおかしかった。
それに何か話しているようだし、少しだけなら―――――――といけないことだと分かっているのに、私は立ち聞きなんて事をしてしまった。
「貴女の好きだった、この幻想郷を守る為に。私は幻想郷から去ります」
(え?)
その言葉は、どういう意味なのか。
理解できない。
理解したくない。
(幻想郷を………去る? どうして? なんで?)
しかも、貴女が好きだったって――――だれのことを言っているのか、もしかして、文様の心を奪ったまま死んでしまった、あの博麗の巫女か。
(お前は死んでも尚文様を縛り続けるのか。………私から、文様を)
「ありがとう椛、もうあなたを私から解放してあげる」
その言葉に、私の頭が真っ白になった。
■
ビリビリっ、と文様の服が破け、豊かな乳房が外気にさらされた。
「や、止めてください椛!」
悲痛な叫び声。奪う側であるの文様が、まるで、か弱い人間の乙女のような声で自分の上にのしかかる私に叫びかける。
だが、そんな声もどこ吹く風。
少しだけ、微笑むと。
「無理やりでも、貴女の心を私に向けさせます」
と、歪んだように笑い。
「なにを――――――!?」
自分の唇を押し付けるように、文様の唇と重ねる。
深く、深く舌を文の舌と絡め、唾液を絡ませながら、たっぷり一分間ぐらいのキスを堪能する。
「んんふ、ぁんむ―――ふぁ、んちゅ………んぐ、あ――――――は、はぁ」
長いキスで、顔を紅潮させた文様と。その蕩けた顔を見ながら満足そうに妖艶な笑みを浮かべる私。
いつもなら翻弄する側、翻弄される側が逆なのだけど、今この場では私が文様を翻弄していた。その事実に私のアソコが硬くなっていくのを感じた。
「可愛いです。文」
「!? んぁ、あん!!」
その角度によって紫色に変化する澄んだ瞳を見ながら、私は文様の乳首をつねり上げた。
それによって、文様は大きく目を見開き喘ぐ。
ビクリと大きく震わせた体。
豊満な乳房が揺れ、私を一層欲情させた。
「ここがいいんですか?」
今度は左乳首を口に含み、右のバストをゆっくりと揉む。
「ん、ふぁ、………あ、ぁん。――――っぁ、んんん」
「ほら、いってくれなきゃ。やめちゃいますよ?」
ちゅうちゅうと、乳首を吸い上げる。その度文様の体は面白いように跳ねた。
「すご、んく、ひゅあ……っ、
あぁん、やっ! ひ――! んくぅ――! きゃっ!」
乳首に痕が付くほど、強く噛む。
文様の息が荒く、身悶えする体は誘っているようにしか思えない。
なんて、魅惑的で。
なんて、美しいんだ。
もっと、この美しい文様を啼かせたい。
自分のことしか考えられないように堕としたい。
私はゆっくりとあいた方の手で、文様の足の付け根。スカートの内側へ滑らせて行く。
その間も、乳首を舌でなぶりながら。
「ひぃんっ――はあぁっ――ふんっ! あはんっ……ん――っ」
キスをする。
最初にしたものよりも少しソフトで優しい口付け。
はぁ、はぁ、と私も文様も。互いの荒い呼吸だけを聞き、視線だけを絡めて。
「どうして、こんな、ことを―――――」
ねっとりと絡まった視線。見詰め合う私達。
そして、いつもの着丈な文様とは思えないほど弱々しく私に問いかける。
ここまで、とろけた文様は初めてだ。
「どうしてなんて―――――――………私は、文様を……」
「待ってください!」
私の言葉を遮るように叫ぶ文様。
その顔はいつの間にか涙で濡れていて、とてもとても悲しそうだ。
(どうして)
「どうして、そんな顔をするんですか……」
私まで悲しくなってきた。
こんなにも愛しているのに。どうして、伝わらないのか。
どうやったって、どうしたって。もうこの想いが文様に伝わることは無いのか。
涙が、文様の胸元に落ちる。
その涙は私の涙。
もう届かないと理解していながらも。もしかしたらと思って、体を重ねてきたけれど。
やっぱり、私の想いが通じることは無いんですね。文様。
「なら、せめて」
貴女が私を忘れなれないほど強く、つよく。
傷痕が残るぐらい、乱暴に、愛しましょう。
下に伸ばしていた手を下着の中に滑り込ませる。
「ふぁ、ひ…………ふうぁ…………んふっは……」
入り口はもうとろとろで、止めどなく潤滑液があふれ出てくる。びしょびしょになった文様の秘所が見たくて、スカートと下着を破り去った。
「やめっ、っぁ…………あぅん……きゃあ……っ、はんっ」
抵抗して、閉じようとする足をこじ開け、間近で堪能する。
赤く火照った襞が、文様が喘ぐたびにヒクヒクと脈動し、とてもエロイ。生唾を私は飲み込み、そっと陰核をすり潰した。
「ふぁぁぁぁんっ、くふぅ…………つぁっ……はふ、駄目ぇっ!」
びくびくと文様が痙攣する。
すると同時に、潮が秘所から迸った。
(凄い――――こんなに乱れた文様は、あの時以来だ)
あの時というのは、酒宴帰ってきた文様を家に運んだとき。初めて私と文様が重なったときだ。
後から聞くにあれは霊夢に媚薬を盛られたらしい。
あの時の乱れようといったら、凄まじかった。
「んぐっ――! うくっ――ひゅ――! ひや、ふくん……
きゃう……うんんっ、んく……っ!」
でも、今も大分凄い。
ドンドンと蜜を溢れさせ、壁を脈動させる。
「そろそろいいでしょうか」
もう我慢の限界だった。私の男性器は隆々と晴れ上がってグロテスクに勃起していた。
「つ……っ! くぁ! ぁあっ、うぁう……っ」
入り口に宛がうだけで、文様はびくびくと震える。
「いきますよ」
「んぁっ!ああぁぁうぁっっ、ふ、はん」
ずぶずぶと差し込まれる肉棒。それが子宮口まで達し、私は体を止める。
一旦、文様の顔を見ようと顔を上げる。
すると、文様は泣いていた。肩が揺れるほど激しく泣いていた。
ボロボロと流れる雫は痛いとか、気持ちいいとか。そんなことが理由じゃなくて、悲しい………のだろう。
(そんなに嫌ですか。私と体を重ねるのが)
凄く悲しくて。
凄く、辛い。
私は、その寂寥感に耐えられずただ、突き動かし達した。
白濁の液が、文様の体に流れ込み。
首に軽い衝撃を感じた途端。
「おやすみなさい。椛」
そう文様の言葉が聞こえ、私の意識はブラックアウトした。
■
破れた服をかき集め、どうにかして体を隠し、幻想郷一のスピードで家に帰った。
新しい服に着替えながら、トロリと、椛がついさっき放った精の残滓が零れ落ちたので。
それを私はすくい上げ、なめた。
「苦い」
また、涙が零れる。
最近の私は涙腺が壊れてしまったようだ。ふとしたことで、涙が零れてしまう。
椛の荒い息、熱い肉棒、優しい指先、激しい性交。その全てが私の体の芯を、ジュンと熱くする。
もう会わないと決めたのに。
もう忘れると決めたのに。
どうして、ここまで貴女は私を狂わせる。
私の決心を狂わせてしまう。
やっぱり、一週間なんて待てない。
もしも、またさっきのように体を求められたら今度こそ私は堕ちてしまうから。
その前に私は幻想郷から去らなければ。
椛の前から消えなければならないのだ。
「いますぐ!?」
「はい」
「どうしていきなり」
「お願いします」
「まぁ、貴女がどうしてもというなら、いいけれど」
「ありがとうございます」
大天狗が大きく溜息を付く。
私は自分の体を抱いたまま、そこから動けない。
ズキズキと痛む心ともドキドキと高鳴る鼓動が、私を締め付けていく。
「じゃあ、外界に続く道を開くから。それまで待っていなさい」
「はい………」
■
愛は他人の幸せを求めるもの。
恋は自分の幸せを求めるもの。
文は椛を愛してはいてけれど、恋してはいなかった。
椛は文に恋してはいたけれど、愛してはいなかった。
その思い違いと、すれ違いが生んだ悲劇は。
もうすぐ閉じられようとしている。
――――――――つまり、ハッピーエンドには遅すぎた物語。
それはある意味での、ハッピーエンドである。
■
文様を無理やり犯してから数日。
上司から直接、文様直属の部下解任を告げられ。
文様がさよならも言わずに外界の任務に行ってしまったことを知った。
そして、私が文様の部下を外されたということで、謹慎処分をくらった為、家で呆然とした日々を過している。
もう、何をすればいいのか。
さっぱり理解できない。
ただ、体を重ねたときの文様のとろけた表情を思い出しながら、自慰をしていた。
今は、それさえも疲れて散乱した部屋の中でぼうとしている。
「おーい、もーみーじー」
にとりの声が響く。
将棋でも指しに来たか? でも、今はそんな気分ではない。
帰ってもらおう。
「ごめん。にとり、今そんな気分じゃ………」
そう、穏便に断ろうとして外への扉を開けた瞬間、扉がカシッと掴まれ、そのまま扉がバキッと、壊れた。
(なんなんだ、一体)
にとりは目の前で少しだけ引きつった笑顔を浮かべている。それに加えて、にとりよりも少し小さい人影は――――――――。
「にゃはははは、気分じゃないのなら僥倖だ。肴にも恵まれたし、さあ杯を交わそうじゃないかい。それとも、白狼天狗如きが鬼である私の好意も受け取れないってか?」
はぁ、と私は頭痛のする頭を抱えた。
厄介な相手が来たものだ。
彼女には、白狼天狗である限り絶対に適わない。何故なら、彼女は鴉天狗と同等かそれ以上の力を持つ妖怪。
鬼――――――なのだから。
伊吹萃香。
会ったが最後。
自分の不運を呪うしかない。
■
「ふんふん、成程ねぇ。文がそんな事を―――――しかし、随分と初耳だ」
酒を飲まされ、全部口を割らされた椛はぐったりとしている。
酒はたしなむ程度に、大酒のみには付き合わないが決まりだったのに、もう何がなんだか分からない。
椛は赤くなった顔を両手で叩いて渇を入れた。
「でも、もうどうすればいいのか分からない。私は文様に嫌われたのかもしれない」
鬼が相談相手だなんて、自分も偉くなったものだ。
いや、もはや自暴自棄。怒りに触れたらそのまま死んでもいいと思う。
文様が居ない幻想郷なんて灰色だ。灰色。グレー。
なんか色々頭のねじが飛んでいるような気がする。
「まぁ、悩んだところで始まらんよ!私だってこの間霊夢にふられたばかりだし」
「はあ、それはまた。なんていったんですか? というか萃香さんって霊夢のことが好きだったんですね」
にゃはははははは、と大笑いする萃香と、それにあわせて酒を飲む私。
むしろ清々しくなってきた。なんかもう全部どうでもいい。
椛は酒瓶を抱えながら萃香の話を聞いていた。
「でなー、こういったんだよ私は! 霊夢少しでいいから、霊夢の体を味見させてくださいって」
「はははははは、それじゃ、ふられますよ! ははははは」
おかしい。明らかにおかしい。
自分でも理解しているのに、なにもできない。
酒には強いはずだったのに、どうしてこんなに高揚しているんだ。
「さて」
ふと、萃香が真剣な表情に転じた。
「私は道を与えてやった。そろそろ、動いたらどうだ、犬走椛」
道を与えてやった?
それは………どういう。
「酒を飲んで鬱憤晴らせたなら、当たってみるのも悪くないだろう。砕けたって、酒のせいにすればいいのだから、な」
萃香が椛にウインクをする。
だが、椛は酔う前のように塞ぎ込む。
「私はきっと文様に嫌われたんだ。だから、私を見捨ててしまった。そんな私に文様を追う資格なんてない」
椛は迷っていた。
文の心の中でいまだ大きな存在であるあの人の事。
そして、勝手に勘違いして体を重ねていた自分。
無理やり犯してしまったという事実。
酷いことをしたのに、許されてしまうのか。
許されてもいいのか。
自分なんかが、ハッピーエンドを迎えてもいいのか。
「お前にはわかっていないから教えてやるが、誰かを好きになることなんかに資格なんて要らないだよ! 愛しているならそれでいい。好きならいいじゃないか! 過去とか、どうでもいいことだ。その博麗の巫女は死んだんだろう!? だったら、奪え。もうそいつは居ないんだから。思いなんていつかは風化していく。だから、今を信じて生きていけばいいじゃないか」
ドクン、と心が高鳴る。
「じゃあ、私は文様を好きで居ていいのかな?」
萃香はその問いにニヤリと笑って、椛の背中を叩いた。
「当たり前だろうっ!」
■
椛が家を飛び出していく。
ようやく決心がついたらしい。
私は、溜息一つついて、ドカッとその場に座った。
『もしも、私が死んだ後。すこしでも文に何かあったら支えてあげて、私の大事な友達だから』
「はぁ、これで貸しは返したぞ博麗■■」
椛は何を勘違いしているのか。
文にとって■■は結局最後まで友達でしかなかった。
そして■■にとっても、あいつらは人間と妖怪という境界を始めて取っ払った仲のいい友人関係。
いまの幻想郷の人と妖の親交が深まっているのも全て、あの二人が始まりなのだ。
魔理沙、アリス、パチュリー。
咲夜、美鈴、レミリア。
霊夢、紫、そして自分。
今も受け継がれている、その親交は。
文が守り続けてきたものだから。
「そろそろ報われてもいいだろう、あの馬鹿天狗も」
そうして、月を肴にしながら。
私は、今も昔も変わらず酒を飲み続ける。
様々な物語を、見ながら。
■
そこは一言で言えば、惨状。
人と妖怪が争う血みどろの戦場。
生きる為に人は銃から玉を発し、妖怪を殺そうとする。が、妖怪も負けずに人を殺し続ける。
その戦場の一角で、自分の血ではない血で全身を真っ赤に濡らした一人の天狗。
「しねぇえええええ」
それに向かって、千の以上の鉛球が襲い掛かる。
しかし。
風符「風神一扇」
スペルカードの起動と共に、鉛球は文を中心とした散弾銃へと変貌し、周りに飛び散った。
悲鳴とうめき声が辺りに木霊し、再び血の雨が文の周りに降りしきる。
それは、同じ天狗にしても恐ろしい光景だった。
どうしてこんなことをしているのだろう。
この任務について早一週間以上がたち。
こうして、人を殺し続け。私が求めていた答えには依然いたらないまま。
幻想郷を守る為に、ここへなにをしに来たのかさえ、理解できなくなってしまった。
椛から離れる為に、ここに来た?
幻想郷を守る為に、ここに来た?
人間を殺すために、ここに来た?
それすら分からなくなってきた。
「ぁぁああああああぁあぁ!!!」
スペルカードを同時起動させ、周りに沸いてきた羽虫どもを殺す。返り血が、更に文を赤く染めて。
「うわぁあああ!!!」
気の狂った人間が、文の背後から剣を抜き襲いかかった。
しかし、それに文は気付かず。そのまま刺されたかに見られた。しかし、―――――――――。その背中を守ったのは、一人の天狗。文が求めて、探し続けた答えの一つ。
「ようやく、追いつきました。文様」
文の磨耗した精神は椛の登場で救われたかに見えた。
しかし。
現実はそんなに甘くなく、一人の人間が号令をかけ、周りで隠れていた人間達が一斉に引き金を引いたことで、今までにはない量の銃弾が二人を襲ったのだ。
■
再び鉛球が襲う。
それをスペルカードで払おうとしたが、間に合わないと冷静な判断をした文は、即座に椛を自分の体と羽で覆って助けたのだ。
つまり、それが意味することは―――――――。
迸る鮮血
それは
愛しい人の血潮。
「………文様?」
羽に包まれ、暗闇の中何が起きたのか分からない椛は少しだけ身動ぎをして文を見上げる。
すると、極上の笑顔で微笑む文がいた。その笑顔は聖母のように可憐で、儚い笑顔。
いやな予感がした。
文様が自分の目の前から消えてしまうような、そんな予感。
「これが、私の選んだ道なら甘んじて受けます」
つぅ、と文の額から一筋の血が伝って、椛の顔に落ちた。
椛はそれがなんなのかを確認する前に、文は細めた目を少しだけ開けて、その血塗れの手で椛の頬をなでる。
「ありがとう。椛、私の為にこんなところに来てくれて。それだけで、私は幸せです」
そう言って倒れた文様。
全身を斑な血に染めて、ゆっくりと目を閉じて。
「文、様!?」
その体を抱き起こす。
しかし、反応はなく。ただ、鮮血が次々とあふれ出すだけだ。
「文様、文様っ!」
揺らしても、起きることがない。
その体からは、全ての生命力が抜けていて、恐ろしいほどに軽かった。
■
そうして、椛は理解した。
文が死んだということに。
「あ、や……あやさまぁぁああああぁあああああ!!!」
その絶叫はどこまでも果てしなく響き渡り、それは幻想郷を見守る大妖怪・八雲紫にまで届いた。
スキマを広げ現れた紫は、椛と文を永遠亭に繋がるスキマに放りこみ。目の前の人間どもを睨みつける。
「貴方方が殺したあの妖怪とは顔見知りでねぇ、少しばかり縁があったものだから」
人間達は恐怖する。
自分たちが相手にしてきた妖怪たちなど、目の前の妖怪に比べれれば足元に及ばないと。
幻想郷を征し、あわよくば妖怪どもを軍事利用しようとしていたこいつらのたくらみは、一掃されることになった。
「さて、貴方方のような羽虫はすり潰してあげましょう。人と妖の境界をいじり、生と死の境界をいじり、無限の痛みと尽きぬ命を呪いながら、有限無きスキマで果てなさい」
その言葉と同時に、この場に居た人間全てが忽然と姿を消す。
それは、神隠しのごとく。
しかし、その人間が一人でも帰ってくることは永遠にない。
「さて、霊夢とイチャイチャしてこようかなっと」
■
故無き悲劇
すれ違いが生んだ
遅すぎるハッピーエンド
その結末が、ここに紡がれた。
■
あれから二年がたった今、私は文様の看病をしながら、この家を守っています。
文様は私を庇って全身に銃弾を浴びました。
しかし、永遠亭の薬師のおかげで一命を取り留めています。
ですが、
「ざんねんだけど、目覚めるかどうかは1%にも満たない少ない可能性よ」
その瞼は開きません。
どうしても開かないのです。
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微笑みかけても、
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触っても、
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動かしても、
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歌ってみても、
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話しかけてみても、
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遊んでみても、
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どうしても開きません。
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そんな日々が二年も続き。
・
それでも、私は待ち続けています。
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・
永遠に。