刹那の邂逅
問おう、貴方が私のマスターか
出会い、きっとあの頃から俺はセイバーの事がほっとけなかった。
私は貴方の剣となり、敵を撃つ
セイバーの責務、その細すぎる肩に乗った、重い願いを取り去ってやりたかった。
やっと、気付いた。士郎は私の鞘だったのですね。
再びめぐり合った剣と鞘、思いが通った運命の夜
――――最後に伝えないと「士郎、貴方を、愛しています。
ああ、俺もセイバーの事が―――――。
輝く朝日、攫われるようにして消えていったセイバーは、セイバーらしくて―――――――。
◆
眩しい日の光に目が覚める;
「朝か」
重たい体に渇を入れ、起き上がる。
時刻は朝5時半
懐かしい日を夢に見ても、決まった時刻に起きる自分に苦笑
あれから既に3年
ホント自分はあの頃から1つも変わっていない
もしくは俺の時間はあそこから止まったままなのかもしれない。
朝日に霞んで見えた、セイバーの笑顔
短いようで長かった日々の名残
それはこの3年間、一度たりとも変わらなかった。
忘れたくても忘れられない日々は、今も鮮明に思い出せるほど。
「飯……作るか―――――」
溜息をついて、客間に向かうと既に桜が朝食を作っていた。
時計を見ると既に6時だ。
「あちゃー、わりい、桜。考え事してて遅れた」
自分でも呆れる。
いくらセイバーの事を思い出していたからといって、30分も考え事をするなんて。
「いいえ、よく眠れたみたいですね。先輩」
それを桜はいいですよ、と許してくれた。
あれから3年。
俺は学校を卒業すると同時に、就職し、皆を養っていた。
何故かって言うと、桜は大学に進学して、遠坂は毎日工房にこもっているからで、
しかもここで住むというのなら、誰かが、この家にお金を入れなければならない。
ということで、普通に就職した。
朝と昼は工事現場で、夜はコペンハーゲンで。
もっとも、コペンハーゲンは俺が中学生の頃からお世話になっている所で、卒業した今でも雇ってくれている。
「ちょっと、士郎!居間の入り口で仁王立ちしてると、邪魔なんだけど」
なんか、背後から殺気が、
「とととととと、遠坂!」
朝から魔王のごとき遠坂がそこにいた。
「あ、おはようございます」
「おはよう、桜。へー、今日は朝から洋風?」
だけどそいつは当然のようにスルーして、台所にいる桜に挨拶した。
「む」
なんか、悪いことしたか?俺。
気になったらしょうがない、本人に聞いてみよう。
「おい、遠坂」
「…………何」
………………………………。
…………………………………………。
ok、何でかわからないけど、怒っているな。完璧に。
「あのさ、遠坂」
「だから、何」
冷蔵庫から牛乳を出して、コップに注いでいるらしい遠坂は
(無駄な事聞いたら殺すから)
と、目だけで語っていた。
「ナンデモナイデス」
朝から不機嫌だけどどうかしたのか、なんて聞いたら殺されるだろう。
◆
「ふぅ」
朝食の後片付けを桜に任せ、仕事場に急ぐ。
結局、朝は遠坂の不機嫌オーラのせいで終止無言。
ご飯を食べ終わった後、遠坂はふらふらと離れへ戻っていった。
「あいつ、寝てないな」
新都に向かうバスで、一人呟く。
ふと、バスから外の景色を見ると空は澄み渡っていた。
「そういえば、セイバーとデートした日もこんな風に晴れてたっけ、って自分で傷口広げてどうする」
自分でぼけて、自分でつっこむという器用な一人芝居。
むぅ、周りの人たちがじろじろと見てて恥ずかしいな。
◆
「お疲れ様、士郎君。今日はもうあがっていいよ」
「はい、お疲れさまっす。ネコさんも」
「あいよ」
ネコさんと、マスターに挨拶する。
そうすると、一日が終わるのだと実感するのだ。
何故かは分からない。
夜の仕事も終え、外に出る。
冬の夜空には、満月が輝いていた。
だからだろうか、
「今日は歩いて帰ろう」
そんな戯れが生まれたのは。
あれから13年たっても、相変わらず開発されることもなく、あり続ける公園は人の気配がない。
当たり前だ、もう夜の9時。こんな真冬に誰かいるほうが………。
いた。
ベンチに誰か座ってる。
というか、寝てる。
「こんな寒いところで、寝てたら凍死するぞ」
全体的に白い服を纏った少女は(顔は見えないが)ベンチですうすう、と安らかに寝ていた。
俺は、少女の前に周りこみ、屈んだ。
何より、少女を起こさなきゃいけないし、少しだけ顔を見たいという気持ちがあったからだ。
白い、帽子を取ろうとして、少女はパチッと目を開けた。
「う、んん」
深緑の瞳は虚ろで、焦点が定まっていない。
「ぁああ」
その顔を見たとき
その瞳を見たとき
心臓が、俺の世界が
止まった。
「せい、ばー」
「え?」
目の前にいる彼女は、間違えなくせいバーだった。
凛々しく、整った顔、少女の華奢な体。
「セイバー」
「あの」
だけど、目の前の少女は、戸惑っている。
「いや、なんでもない」
つまり、セイバーに似ている誰かだろう。
そもそも、彼女がこの世界にいるはずないのだから。
「知人に良く似ていたから」
似ていたレベルじゃない、ドッペゲンガーのレベルだ。
「そうですか、それよりも起こしていただいてありがとうございます」
セイバーに似た少女は律儀に礼をする。
「いやいや、いいって。それより君の名前は?」
「は?」
少女は目を見開いている。
そりゃそうだろうな、いきなり名前も知らない人に名前を聞かれたら仰天だ。
「はは、ゴメン。俺は衛宮士郎。君は?」
コレでおあいこだ。
「わ、わたしはアルトリアと言います」
何たる偶然。
名前まで彼女と一緒なのか。
「そうか」
なんでもない日常。
しかし、忘れる事ない運命の夜。
聖杯戦争、セイバーと出会った日に
衛宮士郎はアルトリアという少女と出会う。
ほんの少しだけ、違う日常が始まる。
終